第五日  2003/8/20 ストックホルム(スウェーデン)
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行程

ストックホルム  終日

事情調査内容  (株)グラスヒューセット訪問(午前)
担当者 ビクトリア ヘンリクソン(女性)
●外断熱をはじめとするエコビレッジ計画について
 
邦人建築家と外断熱について意見交換(午後)
担当者 笠島洋二氏
●外断熱の優位性とトータルコストについて

宿泊ホテル  SAS RADISSON ROYAL VIKING
 SAS ラディソン ロイヤル バイキング
 п@468-5065-4000




国をあげた省エネ対策

スウェーデンといえば、福祉大国として知られている。
その首都・ストックホルムには、世界中から視察グループが季節を問わず訪れる。そのため、福祉・医療・教育など様々な視察ニーズに応えることができるバラエティに富んだプログラムと、長年培われてきた受け入れノウハウが整っている。
私たちはストックホルム市議会をつうじて視察の申し入れをした。このときも彼らは当初、福祉関係の視察と勘違いをされたようだ。

だが、私たちの目的は違っていた。
北海道と共通する気象条件を持つ同市における、北方型建築工法つまり外断熱工法について学ぶのが目的である。

(写真は、外断熱工法による建築現場)


このテーマは、先月の道議会でも議論となった。
1973年の第一次オイルショックを契機として、北欧及びドイツでは、国をあげた省エネ対策の一環として、「外断熱」を全面的に採用した。
だが残念ながら日本においては、間違った認識のもとで、あいかわらず「内断熱」が基準となってきており、その結果、コンクリート建物がさまざまな問題を起こしている。

考えられる、すべての環境対策

外断熱に特化して、専門家から講義を受ける予定は午後だ。私たちはまず、人口2万人規模のニュータウンを環境問題を最重要課題としてつくりあげている、グラスフューセットという環境インフォメーションセンターを訪ねた。
ここは次期オリンピック開催を誘致したストックホルムがオリンピック村を想定し、世界にアピールできるエコロジータウンとして建設を計画した場所である。
結果として誘致合戦はギリシャのアテネに敗れた。しかし計画は変更することなく、8千戸2万人の住人を予定するニュータウン建設として継続されることになったのである。
外断熱は省エネ対策の重要なひとつだが、それを含む省エネ環境対策全体を研修することで、午後の建築工法視察をより有意義なものとしたい。

(写真は、グラスヒューセットのビクトリアさん)


計画予定地は、工場地帯でありゴミの埋立地でもあった。しかし中心市街地から極めて近い場所にあるという地の利を生かし、地域再生をかけたプロジェクトがスタートしたのである。完成予定は2010年というから、作業は急ピッチで進められていた。
仕事のはじめは土壌改良である。これまでゴミ捨て場だったこともあり、化学物質などが埋葬されている可能性もあるからだ。


集合住宅はもちろん高規格の外断熱。熱供給システムを導入するが、熱源は以前からこの地にあった下水処理場を活用したバイオガス。暖房用熱、給湯、調理用ガスなどを供給すると言うからかなりの規模である。太陽光も当然活用する。
生活廃棄物はタウン中心部への車乗り入れを抑制するために、バキュームシステムで収集センターまで一気に集約される。集められたゴミは焼却されるがそこでも発電と熱のストックがおこなわれる仕組みだ。
公共交通で可能な限り生活がまかなえるよう、配慮されているし、公営バスもバイオガスで走るため、地域内に4ヶ所の専用スタンドもつくられる。2年前にドイツのバイオガス発電を視察したときは乗用車への実用化は実現していなかったから、長足の進歩と言える。


こうしたリサイクルタウンを建設したとしても、最後の決め手は住民意識であることは間違いない。どんな洗濯機を買えばいいのか、どの皿洗い機が省エネタイプなのかといった具体的行動に結びつく、市民の環境意識がもっとも求められるだろう。
完成したエコロジーニュータウンを是非見てみたいものである。

(写真は、建設が進むエコロジーニュータウン)

全国初の新エネ・省エネ条例を制定した北海道であるが、やるからには世界に注目されるような成果をあげたいものだ。今後の議会活動の中で、しっかりと具体的な提案をしていく必要を感じた。

外断熱は世界の常識

外断熱について私たちがレクチャーを受けたのは、ストックホルム在住の邦人建築家・笠島洋二さんだ。笠島さんを選んだのは、彼の両親が北海道出身と言うこともあり、道内建築事情に高い関心を持つ人物であることを出発前に知ったからである。
およそ三時間半に及ぶ質疑を通じて、笠島さんを選んだ私たちの判断に誤りがなかったことを確信した。
彼は在スウェーデン日本大使館を設計した人物である。もちろん大使館も外断熱で建造された。

(写真は、笠島洋二さん)


ストックホルムと北海道は、ナナマカド、ライラック、ポプラなどほとんどの植生が重なることから見て取れるように、共通した気候風土を有している。
あえて相違点をあげれば、ストックホルムが乾燥した地域であるのに対し、北海道の湿度は高いということだろう。湿度が高いということは、ただでさえカビなどが発生しやすい条件下にあるということだ。

(写真はスウェーデン王宮。歴史建造物なので解剖はできないが、これもおそらく外断熱だという)


ここで外断熱と内断熱の違いを整理しておこう。
マンションなどのコンクリート建物を断熱する際、建物そのものを外側から断熱材ですっぽりと包み込むのが「外断熱工法」だ。断熱材のさらに外側には、軽量の外壁(外装)材が張られることとなる。これに対し、断熱材を内側から張り巡らせるのが「内断熱工法」である。

一見、大差はないようだが、両者の間には、様々な相違点がある。

@コンクリート建物の寿命は、外断熱の方が3倍から4倍長い。これは外断熱の場合、コンクリートが外気の激しい寒暖の差から、断熱材で保護されているためである。

A外断熱の方が、燃料費は数倍省エネできる。外断熱の場合、厚いコンクリート壁の温度は室温にシンクロ(同調する)する。コンクリートは暖めるのに時間はかかるが、一度温かくなった場合、その熱を維持する蓄熱性をもっているからだ。当然内断熱の場合、コンクリートは冬の外気にシンクロするため、冷え切っている。省エネは冬だけでなく、当然夏のクーラー効果にも同じことがいえるわけだ。

B内断熱マンションでは、カビやダニに起因する健康被害がおこりやすい。これは冬、外気で冷えたコンクリートの室内側に結露が発生するためで、いつもじめじめしているからだ。
この点は、内断熱工法の決定的弱点と言える。


わが国においても、世界に遅れること30年。2003年4月の国会で、住宅金融公庫方が改正された折、「今後は積極的に外断熱を採用する」という付帯決議が採択された。
これを受けた道議会でも、やりとりとなり、知事は「積極的にとりいれたい」と答弁した。今回の先進地視察で、その優位性を再確認できた意義は大きい。



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