第四日  2003/8/19 ストックホルム(スウェーデン)
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行程

ストックホルム  終日(午前は、港より専用車で移動)

事情調査内容  ストックホルム市庁舎及び議会視察(午後)
説明者 古賀朋子氏(ストックホルム在住邦人)
●同市の議会制度及び都市事情について

 
宿泊ホテル  SAS RADISSON ROYAL VIKING
 SAS ラディソン ロイヤル バイキング
 п@468-5065-4000


市町村合併と地方分権

今日と明日に予定していた「外断熱工法」のレクチャーと視察が、事情により明日に集約されたため、急遽ストックホルム在住邦人の古賀朋子さんと契約。ストックホルムの政治行政事情について調査することとした。

(写真の大型フェリーで視察団はスウェーデンに上陸した)


スウェーデンも日本と同様、国の中に、地方政府としての県及びコミューン(日本の市町村)が存在している。50年前には実に2500の市町村があった。これはコミューンの前身が、中世の教区(教会ごとの守備エリア)だということに原因がある。
しかしこれではあまりにも小区分過ぎるため、それぞれのコミューンは財政力もなく分権どころではなかったようだ。
その後、1952年の第1次コミューン合併、62年からおよそ10年かけた第2次合併を経て、現在の21県、289コミューンと減少し、地方分権を担いうる自治体が形成されるにいたったのである。

スウェーデンは他のEU諸国と同様、徹底した地方分権が進んでいる。課税権も、法律で間接税(消費税)の徴収は国税と定められている他は、それぞれの自治体に大幅に認められているのだ。このため、かつてはペットとして犬を飼っている買主に「犬税」が課せられていたのはじめ、さまざまな地方税があった。しかし税の項目が多岐にわたると、徴税が煩雑になるため、コストがかかりすぎるという理由で、今では、どの自治体も「地方所得税」に一本化された。これは法定税だが、その税率については自治体が自由に決めることが出来るのである。

地方自治体が独自の税を徴収すること自体をもって、分権が進んで見るということには無理がある。だが全国一律に税が徴収され、それが地方に配分されるというシステムから、自立した地方分権は生まれない。税のあり方、その使い方、チェック機能などが地方政府に委ねられることは、地方の時代の前提でもある。


スウェーデンにおける県、及びコミューン(市町村)の機能と役割は明快だ。
県行政は、公共交通と医療行政に限定されている。

(写真は、市内を走る公営バス。車両はすべて超低床となっていて、車いすやベビーカー対応となっている)

国内の病院はほぼすべて県立である。民主主義と高福祉の国にあって、それは不可避なのかもしれない。
市は市民生活にかかかわるその他の事項全般を扱う。ゴミ処理、道路整備、高齢者・児童福祉、教育など多岐にわたる。
首都ストックホルムにおいても、事情は同様である。同市の年間予算は日本円にしておよそ4500億円。31パーセントが高齢者福祉に、26パーセントが児童福祉にあてられている。日本では考えられない比率だ。
この数字に市のポリシーを感じ取ることができる。


議会でも貫かれる、徹底した男女平等の理念

男女平等の理念は、ストックホルムにおいても徹底していた。市議会の中には、かつて使われていた女性議員専用の控え室がある。これは女性議員を特別扱いしていた頃の遺物である。市議会定数101のうち、実に53名が女性議員の現在は、専用控え室の意味は何も残っていない。
スウェーデンでは4年に一度、国会議員、県議会議員、コミューン議会議員、それぞれの選挙が同時に実施される。そしてそれらはすべて比例代表選挙なのである。市民は候補者に投票するのではなく、自分の支持する政党に一票を投じる。当選者は、政党があらかじめ選挙管理組織に提出していた候補者名簿の順番に従い、政党が獲得した票に応じて確定していくのである。
議員の数が男女ほぼ同数なのは、偶然ではなく政党の名簿が男女を交互に登録しているからだ。そうしない政党が、市民の支持を得られないのは当然である。

(写真は、市議会の議席に座っているところ)


「余談だが」と古賀さんは付け加えた。10名以上の従業員を雇用している会社で、男女の比率が悪いと、オンブズマンから改善を指摘されるというのだ。もちろん定年制における差別も許されない。スチュワーデスにしてもテレビキャスターにしても、かなり高齢の女性が堂々と仕事を続けている。

男女差別の廃止は、行政や選挙制度としての仕組みだけではなく、市民の意識の中に、ごく当たり前のこととして定着していることを強く感じた。


ノーベル賞受賞者の晩餐会がおこなわれる市庁舎と住民意識

毎年12月10日、世界中の目が、ここストックホルム市庁舎に向けられる。ダイナマイトを発明し巨万の富を手にしたアルフレッド・ノーベル。彼は自らの遺産を基金とし、その利息を世界の平和・科学・文化などに貢献した人々に賞金として贈ることとした。彼の命日でもある12月10日、ノーベル賞受賞者への晩餐会が開かれるのがストックホルム市庁舎だからだ。

(写真は、ノーベル賞受賞者がスピーチをする演題)

というより、この庁舎、実は受賞者を招くために1923年、デンマークからの独立400年を記念して建設されたものである。パーティに参加した高齢者や女性のロングドレスを考慮して、階段の高さ、幅、傾斜などが巧みに設計されており、世界の建築家の間からも高い評価を得ている。


市庁舎には、250名の職員が働いている。ただしその姿は見えない。住民登録などは市の管轄ではなく、税務署がおこなうため、市庁舎に住民窓口は必要ないためだ。
ストックホルム市議会の議場も市庁舎の中にある。実は同市には市長がいない。対外的には市議会議長が職務を兼務するのである。
市が国の国の出先機関になっているという見方と、議会の長が同市を代表することから徹底した住民主導という見方とあるが、今回の事情調査では、この点については残念ながら把握することができなかった。

(写真は、市庁舎前の蝦名道議と池本道議)


市庁舎に対する考え方は、日本とはかなり違っている。ノーベル晩餐会会場として建設されたという歴史的背景があるとはいえ、庁舎を訪れる観光客の入場料で年間維持費を捻出するなど、わが国では考えられない。

(写真は庁舎に併設されている高級レストラン。日本では見られない光景だ)

ただし観光立国をめざす北海道としても、昨年から「赤煉瓦騎馬隊」を旧庁舎前で展開するなど行政庁舎そのものを観光資源にする努力がおこななわれている。
住民参加の行政を進めるうえで重要なことは、市民が訪れやすい雰囲気をまず行政や議会が自らつくりだすことである。
道議会も議場コンサートなどで道民開放をしているが、結婚式までやってしまうストックホルム市庁舎にはまだまだかなわない。


徹底した環境政策と省エネ対策

環境対策は今や世界のテーマである。特にヨーロッパにおける取り組みは各国、各地域が競い合っている様相もあるようだ。スウェーデン・ストックホルムも例外ではない。
スウェーデンの環境税は、生活の各分野に影響を与えている。例えば商品の包装。もともと包装に、あまり付加価値を見いださない国民性ではあるが、それに拍車をかけているようだ。過剰包装をする店には特別税が課せられるのだ。
一般ゴミの分別も進んでいて、家庭用ゴミは何と10分別となっている。
建設廃棄物に対する考え方もはっきりしている。日本では、高度成長時代以降、スクラップアンドビルド方式によって、「壊しては造る」が繰り返されてきた。使えるうちにこわすという概念がこちらにはない。市民の80%は集合住宅に住んでいるが、築後50年を越える建物はざらだ。もちろんそれを可能としているのは、今回のテーマでもある「外断熱」工法による長い建物寿命であろう。
(写真は、外断熱でつくられた寿命の長い集合住宅。市民の80%が住んでいる)


交通事故対策も、さまざまなことが施されている。
交差点にはロータリーが多用されているが、これによって小さな接触事故はあっても、大型事故は激減したという。信号機がロータリーでは使用しないため、省エネにもつながるわけだ。
積雪寒冷地のため、北海道同様信号機に雪が積もる。被害を最小限にしようということで、市内の信号機はすべて縦型だ。また反射光で信号の光が見えずらくなるのを防ぐために、ランプは発光ダイオードを採用しているようである。これはかつて、予算委員会で鰹谷団長が提案したものと同じで、今回の視察を踏まえて、今後さらに取り組みを強めることとしたい。

また、自動車の昼間点灯が法令によって義務付けられていることも見過ごせない。このことによる事故対策は成果をあげているという。死亡事故の全国ワーストワン記録をもつ北海道としては、是非検討をさせたいものだ。

(写真は街角のセブンイレブン、このすぐ右側に縦型の信号機があったのだが)



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