第三日  2003/8/18 ヘルシンキ(フィンランド)
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行程

ヘルシンキ  終日

事情調査内容  輸出・国際投資促進機関(FINPRO)訪問(午前)
●IT産業をはじめとして、国際競争力を高めるコンサルタント業務について
●産業クラスターの成功を支える行政の支援制度について
 市内に点在するキンダーガルテン視察(午後)
●経済復興を裏づける教育政策

宿泊ホテル  シリアライン 船中泊




キートスではじまるフィンランドの朝

ヨーロッパの人々は、どこでも明るく人なつっこい。ここフィンランドもそうだ。日本語の「ありがとう」に直訳される「キートス」という言葉があちこちで聞かれる。タクシーで客が「キートス」と言えば、運転手もニコッと笑って、「キートス」。朝食会場でもフロントでも、とにかく「キートス」が連発されている。
ありがとうに、ありがとうで応える。幾多の戦争を経験してきた人々が、長い歴史の中でつくりあげてきた人間関係の原点なのかもしれない。

心がけたい生き方である。



奇跡の経済復興を担った国の支援制度

90年代初頭ヨーロッパ全体は、深刻な景気低迷状態に陥っていた。そうした中フィンランドはIT産業を中心としたクラスター戦略の成功で、奇跡的な経済回復を果たしたことで知られている。
それをバックアップしてきたのが、国による複数の公的支援機関である。

国家予算の1パーセントが投じられている「フィンランド技術庁」は、民間や大学などの研究に対し、出資・融資・助成などをおこなっている。フィンランド商工省のもとに設置された独立機関である。ひとくちで言えば、技術庁は、同国におけるクラスター戦略の策定と、活動の実質的な総括を担っている機関というわけだ。
事業展開には次の3点が考慮されている。
@クラスター事業選定を具体的に絞り込む。Aそれぞれのクラスター事業ごとに、約5年の事業期間を定める。B資金拠出額を呈示するなど、支援内容を明確にする。
このことによって起業家は、@参加しようとするクラスター事業の守備範囲を明確に知ることが出来る。A期間が明確になることで、計画・実施・評価を体系的におこなえる。B支援内容を知ることで、事業参入判断に材料ができるとともに、参画後の事業展開においても計画性を持たせることができる。という利点が生じるわけである。

(写真は、会議室に向かう滝口副団長。社内のセキュリティは徹底していて、廊下やエレベータも同伴社員のカードがなければロックされ通過できない)


国会が直接責任をもつ独立した公的ファンドとしての「フィンランド研究開発基金」は、民間からの資金調達が困難な起業家に、投資及び、人的・サービス支援をおこなっている。かつてフィンランドには、複数のベンチャーキャピタルが国営として存在していた。1997年に設置法が改正され、より機能性を向上させるためにこの「基金」に統合された経過がある。その後、2000年には、さらに法改正がおこなわれ、初期段階のベンチャーに対し、優先して投資をおこなうことが、明文化された。同時に投資財源として4千2百万ユーロが寄託された。

(写真は、日本とフィンランドの友好を示す国旗が設置された会議室)

さらに、「ベンチャー・輸出信用向け金融機関」は、全額政府出資で、民間企業の輸出活動支援で成果をあげている。
ベンチャーへの投資が「フィンランド研究開発基金」に一本化されると同時に、中小零細企業へのリスクファイナンス(融資・保証)は、当「金融期間」に一本化された。融資先も多岐にわたっていて、地場の経済活性化も支えている。ユニークなところでは、「女性起業家のための特別融資制度」などもある。雇用先を拡大する意味でも役割は大きい。国内に16の支店があり、ユーザーとの連携をしっかり担っている。従業員が一桁の企業への融資が多いにもかかわらず、回収不能率が1.8パーセントというから驚く。

(写真は、通訳をするフィンプロの若手職員)

以上以外にも、「国立技術研究センター」や、「地域技術雇用教育センター」などの公的支援機関かが存在している。

このように複数の複数のサポートシステムが相互にネットワークしながら、経済の活性化を可能としたわけだ。

(写真は、説明に聞き入る鰹谷、蝦名、田村、佐々木道議)

企業の国際化を支援するフィンプロ

私たちが訪問したのは、前述の公的支援機関のひとつで、「輸出・国際投資交流促進機関(フィンプロ)」という組織だ。政府資金と、企業からの賛助金によって設立された半官半民の機関で、機能的には日本のJETROにあたるものといえよう。従業員400名、会員企業700社である。
海外42カ国に52のトレードセンターを有し、海外市場に関する研究広報及び個別プロジェクトに対する専門コンサルやマーケティング支援をおこなっている。また、海外企業等のミッション受け入れ等を通じて、フィンランド国内への投資誘致及び同国の産業・観光等に関する広報・ネットワーキングの機会も提供している。

(写真は、フィンプロ副社長のエスコ氏)


私たちを出迎えてくれたのは、副社長のMr.Esko Aaltio、東京(日本)事務所長のMr.Olli Juvonen、仙台プロジェクト担当責任者Mrs.Jutta Immanen、及びMr.Pekka Lappalainenさんの4人だ。
まず副社長から挨拶があった。
「ヘルシンキ市への、北海道からの視察は数多いが、フィンプロを訪問してくれるケースはほとんどない。その意味でも多いに歓迎する。北海道へは何度から行ったことがあるが、フィンランドにどこか似ていて、とても好きな地域だ。当機関の東京事務所もあるし、現在、仙台プロジェクトを展開中なので、極めてタイムリーな情報交換ができることを心から嬉しく思う」

続いて鰹谷団長から挨拶。
「地域の中小企業を国際化させてきたフィンプロには、以前から一度来てみたいと考えていた。今日の成果を21世紀の北海道に活かすことは当然だが、今後関係を継続することで、ヘルシンキと北海道、しいてはフィンランドと日本の友好親善にも寄与したい」

(写真は、副社長の挨拶を聞く鰹谷団長)

フィンプロの前身であるは「フィンランド輸出協会」は、フィンランドが独立してから2年後の1919年に設立された。物を外国から輸入しなければ国として成り立たない時期に、そのための資金形成を目的として輸出に強い企業を育成することを目的として設立された。
会員企業からの資金提供だけでは運営できず、予算の多くは通産省から措置されている。
純粋な政府機関と違い、半官半民のため、ものごとの処理がスピーディであることが特徴だ。そのため海外窓口であるトレードセンターも、その市場状態により柔軟に新設したり閉鎖したりすることが可能である。
行政組織であればこうはいかないであろう。

(写真は、東京事務所長のオリイ氏からの説明風景)

フィンプロのビジョンは、「中小企業を国際化し、ぶつかる問題を解決していく」ことだ。そのため、@情報を会員企業に与え、A経営プログラムを共同して作成する。
世界にはどのような市場があり、支援しようとする企業にはその中で何が相応しいかを具体的に提示し、サポートするのだ。


需要と供給をマッチングさせる意味でも、世界中から届く電話や電子メールの問い合わせは重要である。

その一つが仙台市からの電話であった。
フィンプロは会員企業のもつノウハウを結集し、フィンプロがコーディネートすることで、ITを駆使した未来型高齢者施設のモデルシステムを開発してきた。これを日本のどこかで展開したいと考えていたところへ、仙台市から問い合わせがきたのである。

仙台プロジェクトのスタートであった。

(写真は、仙台プロジェクト担当責任者のジュッタ女史)

仙台プロジェクトの基本は、「あ、自分でも出来るんだ」という高齢者自立への手助けでだ。ITは若い世代のものだけではなく、安全性やセキュリティなど高齢者にとっても大切な分野である。

ひとつのサーバー(コンピュータ)に、個々の高齢者の治療データをはじめとするさまざまな情報を集約しておく。個人は腕時計のようなアラーム装置を付けていて、体調の変化などはリアルタイムにケアマンが把握できるようななっている。痴呆の進み具合によっては、施設内の危険と思われるドアはアラーム装置の作動で自動的にドアがロックされるなどのシステムだ。

施設もバリアフリーは当然だが、歯が丈夫だと元気になれるということから、車椅子でも寝たきりでも治療できるデンタルクリニックが用意されている。

しかしこれらの技術は、そのシステムによって高齢者を管理しようと言うのではない。一般的なことはITにまかせ、時間を有効に生み出すことによって、家族やヘルパーとの触れ合う時間を長くしようというコンセプトに裏打ちされているのだ。

施設の基本的な設計は、ヘルシンキの企業によるコンペで決まるが、内装をはじめ周辺整備は仙台市の地場企業が担当することとなる。

(写真は、フィンプロ社屋前にて)


今年11月には、仙台市長がフィンプロを訪れ、正式契約に至る。


高齢者介護の考え方など、いくつか疑問もあるが、今後世界の国々が検討をはじめるテーマであることには間違いない。
今回のプロジェクトは福祉とITのドッキングだったが、フィンプロとしては、あらゆる産業ジャンルをカバーしていることに注目したい。

(右の写真は、質疑が行われた部屋の名前。「TOKYO」となっている。副社長は今度は「HOKKAIDO」という会議室もつくりますと、笑いながら話していた)

視察団としては、帰国後早い段階でフィンプロ東京事務所や外務省とも接触し、北海道における連携のあり方について道と協議していきたいと考えている。
極めて有意義な調査であった。

フィンランドが抱える課題

IT産業で経済回復を実現したフィンランドではあるが、わが国と同様の悩み・課題も抱えている。
何よりも、人材の不足である。このことは、旧産業従事者の労働移行と、質的ミスマッチという課題とも重なっているようだ。
また、集積地域への人口集中と他地域の過疎化という問題も深刻である。
さらには、先端産業の既存・伝統産業への応用も課題となっている。

しかしこれらの課題も、旧ソ連との密接な経済交流に支えられていた同国が、ソ連崩壊後の経済混乱・低迷を自力で乗り切った力強さで、必ずや克服していくのだろう。

北海道においても

北海道においても、産業クラスターに対する支援策は、さまざま議論しながら整備してきている。
だが当地で話しを聞き、感じたことは、@行政は制度や機関を用意するだけではなく、一歩踏み込み、あるいは長期にわたったサポートを仕組みとして保証しなければならない、A起業家を支援する場合、将来の姿(例えば輸出産業としての可能性など)を展望しそれにあったコンサルを当初から施さなければならない、B制度間のネットワークを意識し、活用する側にたった支援をしなければならない、などである。

大切な課題であり、今後の提言に活かして行きたい。

日本企業の海外進出がさかんだが、フィンランドへの直接投資は少ない。治安がよく、教育水準が高いという利点もあるが、労働力が高い、さらには国内市場に限界があるなどがその原因と言われている。

しかし最近、富士通がソフトウェアの開発会社を設立する動きもあるようだ。高い水準の情報技術に着目してのことだろう。注目される動向である。

再生フィンランドを支えるもの
フィンランドの各都市には、ほとんど国立大学がある。税金が高い分、福祉政策とならんで教育の分野でも国民は国から手厚い扱いを受けている。授業料は年間で一万円前後と、日本では考えられない設定となっているのだ。高い教育水準が、再生フィンランドの将来を保障しているようだ。

(写真は、ヘルシンキ大学の校舎一部)

教育は大学だけではなく、幼稚園からはじまる。ヘルシンキ市立のキンダーガルテンを見てきた。遊具一つにしても、例えばボルト止めの部分がすべてゴムカバーで保護されるなどこまやかな配慮がほどこされている。
フィンランドでは女性の就業率が極めて高いが、彼女たちが安心して安心して仕事を出来る仕組みは、こんなところからも見て取れる。

(写真は、子どもに優しい遊具の説明を受ける池本道議ら)



子どもたちは、次の社会を担う社会の宝物だ。市内にはキンダーガルテンが点在している。

(写真は、子どもになつかれる佐々木道議)

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