第八日  2001.4.12  ベネチア
欧州見聞録へ戻る
前日へ 翌日へ
「ベニスの商人」で知られる,ベネチアを訪れた。
市民の足も、観光資源に

イタリアとして統一される前、海運力を誇って地中海に覇をなした強国が、今のベネチアの前身だ。
きわめて独特な地形をしており、120の島から出来ていて、それらを150の運河、400の橋が結んでいる。

まさに水の都ベネチア(ベニス)である。
市内に車は走っていない。市民はどこへ行くにも歩いていくか、ゴンドラと呼ばれる船を使うのだ。市民の足としての水上ゴンドラは、400年以上昔に、色が統一されている。どのような背景かは定かでないが、見る人の目を楽しませる資源のひとつとなっている。観光客誘致策だとしたら、その先見性には、目を見張るものがある。

車のない街を、カラ松が支える

今回の視察で、我々がこの地を選んだ理由は二つある。

その一つは、非車社会の実態に触れること。二つ目は、カラ松の活用について視察することだ。

まず、車のない街について。
一部の裕福なケースを除いて、市民は自家用の船をもつことなく、すべて公共交通としてのボートを利用する。ベネチア駅から、市内中心地であるサンマルコ広場まで、各駅ボートで約45分。日本円にして90円の料金だ。

世界一美しい街と称される「水の都・ベニス」も、11月の最大満潮時には、大人の膝あたりまで浸水することも、よくあるようだ。
しかし一気に水が出るのではなく、ジワジワと石畳のすきまから、しみ出てくるという感じなので、市民はあわてることはない。
また、事前に気象機関から予報も出されるので、店舗経営者は商品を上段に移すなど、手馴れたものである。

普段は広場に積み上げられている木板と鉄パイプで出来たベンチのようなものが、一列に並べられて木道となるのである。
これでは車が走れるわけがない。島の集合体というベネチアの地域特性が、ノーカーアイランドを生み出した。

北海道が、これをまねる必要はないし、真似も出来ない。
しかし、極端な例では、タバコを買いにコンビニに行くのにも自家用車を出してしまうというような今の生き方は、どこかで見直さなければならないだろう。

次はカラ松のパイルについて。

ベネチアは、自然の海路を運河として改修しながら現在の姿になった。街の中に運河が走るのでくなく、まさに無数の運河に沿って街が形成されてきたのである。

地盤は、北海道に多い泥炭地だ。
ヨーロッパ特有の石造り建造物は、ただでさえ重いわけだから、この地域に都市をつくっていくのは、容易ではなかったろう。

そこで採用されたのが、カラ松を材料としたパイル工法だという。
一つの森がなくなるまで木を切り出し、まわりを粘土で塗り固めた上で、地中に隙間なく打ち込んだ上に、大理石を載せていく。
少しでも重量を軽くするためだろう、レンガも多用されている。

北海道では、カラ松は極めて人気がない。そのカラ松か、この国を文字通り支えていることに注目したい。
粘土でパックしたカラ松は、硬くて耐水性に優れた土木資材なのである。道内の護岸工事をはじめ、その活用のあり方について、今後検討をしていく必要性を実感した。

道内の河川整備

北海道でも、市民の立場からする「創成川ルネッサンス」運動が展開されたり、行政も改正河川法にもとづいて、環境や市民生活と結びついた河川整備を進めていることを考えれば、大変参考になる街だという印象を強くした。

前日へ 翌日へ