第二日  2001.4.6  ウィーン
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現地で迎えた初めての朝。緊張しているためだろうか、疲労を口にする者はいない。

国際都市ウィーン

早朝から、大きなタンクを引いたトラクターのようなものが街中を走っている。広い歩道に点在している公共の植え込みを手入れしているのだ。

森の都、ウィーンは、その価値を維持するために官民が努力をしている。


フォークとナイフの朝食を済ませた後、ホテルロビーで内山添乗員を交えたミーティング。
内山さんは、欧州添乗を百回以上こなしているベテランで、行政視察・議会視察の経験も豊富である。

オーストリアの首都ウィーンは、かつて中世には、神聖ローマ帝国の首都であり、街の中心部を取り囲んでいる環状道路は当時の城壁跡地であるという歴史をもっている。
この環状道路には、市電が走っていて、市民の足として活躍している。市内にはバス、地下鉄もあり、公共交通の利便性が都心部におけるマイカー自粛にもつながっているようだ。
そのことが二酸化炭素排出を抑制していることは言うまでもない。
ただしここ10年ほど前から、急速に車の台数が増えており、高速道路脇には、違反駐車でレッカー移動した車を保管しておく集積場まで作られたほどである。

それはともかく、いたるところに公営交通が巡らせられている。
しかも道路構造が、自家用車ではなく、人間中心だというところが気に入った。例えば、日本の場合、電車の線路は道路のセンターにあるが、ウィーンでは道路の両脇に歩道に接する形で敷かれている。
このちょっとした気配りによって、市民の足としての公営交通に人気が集まるのだろう。



ドナウ川本流と旧ドナウ川にはさまれた緑地には、ウィーン国際センターがあり、国際原子力機関をはじめ、多くの国連機関が存在している。森の都ウィーンは、国際都市ウィーンでもある。


世界に通用する北海道劇場を

ウィーンといえば想像されるのが、宮廷文化と優雅な音楽の街というイメージである。ドイツ系民族の中には、ベルリンを東京に、ウィーンを京都に例える人も多いように、世界トップレベルの芸術・文化を誇っているのだ。
300年続いたハプスブルク王朝の帝都でもあった。当時の王宮や宮殿も、もちろん残っており、観光資源としての役割を担っている。

王朝の夏の離宮が、世界遺産にも登録されているシェーンブルン宮殿だ。ハプスブルク家滅亡後、共和国が没収し管理をしている。老朽化したため、十年間で百億円規模の修復工事が進められているが、年間二十億円の入場料収入があるため、五年で元が取れる勘定だ。


なんと言っても世界的に有名なのが、ウィーン交響楽団とフィルハーモニー管弦楽団。大小様々なコンサートホールや劇場も散在している。

夏期以外は、ほぼ連日オペラが鑑賞できる国立オペラ座もある。「世界の文化に通用する」劇場建設を進めている北海道にとって、学ぶところの多い街と言える。


省エネ地域暖房を担うゴミ焼却施設

この日は、環境対策をほどこしながら地域暖房を実現している最近世界から注目されている施設の実態を視察。
目指すのは、シュピッテラウ焼却場だ。市内中心部から、ほどない住宅街に隣接して施設は存在している。
有毒物質や悪臭問題だけでなく、新しいコンセプトに基づく芸術性の高い施設と聞く。一見、ゴミ焼却場とは分からない。アラビアンナイトを想わせる外観、特に焼却炉の煙突は、旧ドナウ川から展望すると初めは戸惑いを覚えるほどである。

ゴミ焼却場からは大量の熱が発生する。住宅街に隣接して施設があれば、その熱を有効に活用できることは論を待たない。しかし実際には、同時に発生するダイオキシンのため、できるだけ郊外に立地されるなど、焼却場はいわゆる迷惑施設とされてきた。
北海道においても、ゴミ処理の広域化計画が進められているが、最大の課題はダイオキシン対策である。

ウィーンのユニークなランドマークとして有名になったこの施設は、ダイオキシンの発生を防ぐ最新の技術を駆使した、ごみ処理行政の今後の姿のひとつを示すと言われている。また、プラントからの熱が地域暖房に提供され、省エネ施設としての高い評価を受けていることも見逃せない。

130人のスタッフが交代で勤務により、年間8000時間の稼動を可能にしている。

オーナーは市だが、直接の出資ではなく、市営交通・水道・ガス電気などの公営事業団による出資で有限会社組織である。
そのため、民間的色彩が強く、当然収支も気になるところだ。

ゴミ収集は他のヨーロッパ諸国と同様に有料。ただし、一ついくらというのではなく、公営住宅の家賃に含められており、どちらかといえば税方式に近いものがある。
同社の特徴は、廃熱を利用しての地域暖房システム。パイプラインの総延長は90キロに及び、市内四分の一にあたる20万2千戸の温水と暖房を担っているという。
こうした民生用は全体の三分の一であり、残りは国会議事堂、美術館、市役所など公共施設に供給されていて、年間の売上は、実に400億円にもなる。

興味深かったのは、その次だ。この国では、利益の54パーセントが税として徴収されているので、それを避けるために、次々と設備投資が繰り返される。つまりパイプラインの延長であり、供給範囲の拡大なのだ。
それによって、土地売買が行われ、労働者が雇用される。

節税という民間的発想が、市の経済にも大きな影響を与えているわけだ。

施設を中心とした6キロ以内には、64万人の住民が住んでいる。プラントの窓から顔を出すと、眼下には地下鉄の駅があるではないか。道路を挟んだところには大学まである。
ゴミ焼却施設が、このような所に立地されている例は見たことがない。
130人の職員で24時間の稼動を支えており、炉の述べ運転は、一年間で8千時間だ。

農業の多面的機能にEUも支援

ウィーンは、北海道に通じるところが多い街でもある。
アルプスのきれいな水を活用した情報産業をはじめ、最先端技術の開発では、EUの中でドイツに次ぐものを持っている。企業誘致も進んでおり、ドイツのフォルクスワーゲンやBMWなどの生産工場ある。

ちなみに「フォルクス」とは、フォークソングの語源とも一致し、「大衆的」という意味だ。ウィーンは、フォルクスオペラ公演専用の施設もあるなど、民主主義の出発点を垣間見ることができる。
王宮文化を世界遺産として観光資源に活用すると同時に、王宮=貴族社会の否定の上にたつ大衆文化を開花させるしたたかさを合わせ持つ都市という印象も拭えない。

工業部門だけでなく、農業の位置付けもしっかりしている。なんと同市の食料自給率は100パーセントである。
しかも農業は、単に食料を生産する部門と考えるだけではなく、自然環境の保全というエコロジックな発想に支えられてサポートされているのである。
つまり、かつては牛一頭あたりいくらという国の補助制度だったが、今では、農業の多面的機能つまり環境的視点から、面積あたりいくらという補助制度に変わっている。補助をおこなうのは、州、国、EUと極めて構造的なのである。

IT産業の誘致と起業化とともに推し進めなければいけない農業基盤の整備が、重要な課題となっている北海道と、通じるところを感じた次第だ。

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