HOSHINOTAKASHI

第四日  2010/8/24  
視察目次へ戻る
翌日へ

行程

ストックホルム   終日

事情調査内容   @ハンマビー地区調査
  A運輸研究所訪問

宿泊ホテル   HOTEL FIRST AMARANTEN
  Tel.46-8-6925200
 

ハンマビー地区訪問(午前)

  現地視察2日目。私たちは環境負荷を従来都市の半分にすることを目指すハンマビー地区を訪れた。

調査項目は次の各点
@環境都市づくりプロジェクトの概要聴取
A計画期間において明らかとなった課題と問題点聴取
B市民意識の実態聴取

  今では、「ハンマビーモデル」と呼ばれ、世界中が注目するこの地域も、14年前は産業用地であり、土壌汚染などもあったという。現在は、スポーツホール、レストラン、図書館等も整備されており、運河では釣りもできる(サケ)。また、その魚は汚染されてないので、食べることもできる。30キロ級の魚もつれるそうだ。冬には、運河でスケートができる。
  使い終わった産業用地で汚染や廃墟でたくさんの課題を抱えていた当地区を、スウェーデンは見事に蘇らせたのである。
  アメリカの調査期間によれば、世界の人々は、現在半分が都会に住んでいる。2030年には60%が都会に住むと言われている。街中、郊外に街が拡大するため、ゴミの処理どうするか、交通はどうするのかなど課題が今後山積するというのだ。
  ハンマビー地区をプランニングした人は、新しい発想をした。スウェーデンが名付けたシンビオシティ。だいたい、計画というものは一つ一つプランニングしているが、シンビオシティは並行して総合的に進めているのが特徴である。また、行政と住民が一緒に都市計画を立てるようにし、都市計画を立てる以前に、みんなで議論をしたことも、世界に冠たる環境都市ハンマビーを成功させた要因なのだろう。

  ストックホルムは、2004年にオリンピックを誘致するつもりだったが、アテネに負けてしまった。しかし、オリンピックを誘致することと同時に、環境都市をつくるアイディアも実はあったのだ。それは、シドニーがオリンピック誘致に成功したのは、環境の要素が多かったためだと言われていたからである。

  一番のターゲットは環境への悪影響を半分に減らすことだった。それは逆に言うと、環境を2倍良くするものでもある。市の上水道や下水道等、市の関係者が議論し、都市計画を作る前にディスカッションが頻繁に行われた。土地の利用、汚染された土壌、エネルギー、飲料水、汚水、ゴミ、建材をどういうものにするか、交通機関、グリーン地域などについてでもある。
  まさに街をグランドデザインしたと言っていい。

  面積は、204ha、建設コストは4.5ビリオンユーロ。ところが、ストックホルム市が出すお金は、わずか0.2ビリオン。他は民間ゼネコンが負担した。国からも予算がついたが、わずかであった。土地はストックホルム市のものであった。
  土地は、30のゼネコンが市から買いとった。ゼネコンがつくる建物については、強調した建物、デザイン、色合い、建材をどういったものを使うか等、行政としっかり話し合って行われる。だが、それぞれのゼネコンの考えるデザインは千差万別であり、なかなか調和できないという課題もあり、その解決策として、色で調和をとることで調節をした。建物の高さは、だいたい5階から8階、市が建物の高さを決めており、おおむね19Mである。
  街全体では、1万人の雇用を創出することも計画。自転車道路や、公共交通機関のトラム(路面電車)も整備した。しかし、まだ街中まではつながってないため、将来的には街中までつなげるようにする計画だという。つまり街は進化を続けているわけだ。

  運輸部門における対策としてカーシェアリング(ハンマビーではカープールと呼んでいる)が世界で注目されている。ここでは、プライベートのみで、550家族が加盟をしており、35台の車でカーシェアリングしている。予約方法はインターネット、鍵は、携帯モバイルで開けられるようにしているようだから、なかなか使い勝手も良さそうだ。
  現在、通勤通学の79%の人が、公共機関、自転車、歩きとなっている。街中の車利用率は、昔と比べると40%減少した。たぶん、トラムが完成したことの要因が大きい。以前イギリスのBBCがハンマビーモデルを取材しにきた際、イギリスの環境地域の例も聞いたが、そこは公共機関をつくらなかったため、車がものすごく混雑していると、言われたそうである。
  ハンマビー地区開発にはゼネコンが大いに協力している。配管を行う場合、銅菅は禁止、スチールかプラスティックのみの使用が許される。スウェーデンの住宅は、家具、家電用品は全て揃っているものがほとんどである。ゼネコンが家電を備え付けるときには、すべてAクラス用品。トイレは水量が少ないものにし、建材もリサイクルがきくものにした。建築コストは高くなると予想されたが、実際は2〜4%ぐらいしか高くなっていなかったという。しかも、たとえばゼネコンがアパートを売ったときに、投資した分、ゼネコンに返ってくるという利点もある。典型的な環境ビジネスと言える。


  ハンマビーモデルは、エネルギー供給所、浄水所、下水道、熱供給所など、全て市でやっている。ゴミや汚水は全て再利用され重要なエネルギー源となっていて、70%が地域暖房に加盟している。ゴミは95%再利用し、コジェネシステムにより、かなりのエネルギー効率をあげているようだ。
  汚水処理後の水は、18度も温度があるため、熱処理をして、地域暖房に使用。熱処理されて冷却された水については、冷却システムに使う。個人宅には、冷却システムはないが企業、会社にはある。ソーラーセラーは黒い窓ガラス。ソーラーパネルも設置している。50%のソーラーパネルの熱水は、暖房に利用。冷房は会社のみで、家庭では扇風機を使用しているらしい。
  車のエネルギーとしては、2050年までにエタノールかバイオガスにすることが決まっている。


  ゴミは、有機ゴミ、燃えるごみ、新聞紙などに分別した上で、専用ボックスに投棄する。投棄されたゴはすべてコンテナに入り、時間によって時速70キロでバキュームされる。車の時速は30キロだが、ゴミは70キロというスウェーデンジョークもあるようだ。ゴミ箱は150カ所に設置されている。バキュームシステムにより、収集車を使わない分、CO2排出が抑制されている。ペットボトルなどは、お店に持っていけばお金に換えてくれるデポジット制度も徹底されている。。
  「分別の意識は、市民を洗脳することだ」と笑いながら説明してくれた。ゴミを投棄するパイプは、ENVACというスウェーデンの会社でつくった。直径40センチメートル、ステンレス管。ここにも環境新ビジネスを見ることができた。瓶などについては、ゴミ収集車でいまも回収しているが、量は激減している。

  スウェーデンは200リットルの水を一人当たり使用しており、それをハンマビー地区では100リットルにすることを目標にしている。トイレの水量、食洗機、水道の中に空気をいれること等により、水量を下げている。現在、150リットルjまでにはなったようだ。
  またハンマビーは、グリーンエリアを多くつくっているのも特徴の一つである。緑を極力多くするよう、計画し整備している。ハンマビー地区からの橋についても、道路脇等に、緑を併設しているため、騒音があっても、緑が多いので車が隠れる。野生のエルグ(へらじか)もたまに出没しているというから素晴らしい。
  ハンマビーモデルには、どういう人が住んでいるのか?分譲住宅が55%、賃貸住宅が45%となっている。当初は、生産コストが高いため、ターゲットは郊外の一軒家を持つ、子育てが終わり大きい家がいらなくなった人に販売しようと考えていたが、実際は25歳から45歳くらいの、中産階級以上の人が多く居住している。賃貸費、管理費は街中とほぼ一緒の金額であるが、ハンマビーには、なぜか病院はない。一階はお店にすることが条件。

  現在、30のゼネコンが入っているが、住宅建設にあたっては75%が環境に配慮したものとなっている。
  また、市民が面倒がらないように、積極的に環境教育も実施しており、環境センターには、年間13000人が訪問してくる。
  1990年対比、今日30〜40%を環境に配慮できている。ハンマビーは国内外でも有名になってきており、中国では数ヵ所の地域が、このハンマビーモデルシステムを真似してまちづくりを進めている。
  ストックホルムは、2010年のグリーンキャピタル(環境首都)に選ばれた。その要因は、渋滞税の導入とハンマビーの効果だと言われている。現在、ハンマビーに住むことがステイタスになっているのか?の問いに、なっていると力強く応えてくれた。

  行政、企業、市民、三者が一体となって都市作りプロジェクトを進めている実態をはっきりと理解することができた。押しつけではなく、協同が大事なのだ。また企業にしてみれば採算を度外視してプロジェクトに参加するわけにもいかない。そこに新たなビジネスチャンスが準備されていることも見過ごせない。
  3万人規模の都市づくりであり、そこにはスケールメリットも存在するのだろう。様々な工夫を凝らすことで、もう少し小さな規模で北海道版ハンマビーモデルを検討することが、必要だろう。「北海道ハンマビー研究会」などを設立し、市民、企業、行政が知恵を出し合うことも検討したい。





原子力安全当局(午後)

  ハンマビー地区について、まだまだ質疑を続けたい気持ちを後に、私たちはスウェーデンの原子力安全当局に向かった。出迎えて頂いたのは、アンダーベリー放射線安全局長と、技術部門の責任者フェードバリー氏だ。

質問項目は次の各点
@研究の現段階と課題聴取
ASKBから提出される建設申請に対する判断の基準を聴取
B再処理しない理由や背景を聴取
C国民意識の推移を聴取
D原子力発電にかかわる政府としての基本姿勢を聴取


  まず、アンダーベリー局長から、スウェーデンにおける原子力政策の組織について説明があった。安全当局は環境省のもとに設置されているとのこと。原発の設置・許可も重要な仕事のひとつ。核燃料の研究所、工場、さらには原発を廃止した場合の取り扱いも彼の監督下で行われる。
  2時間という限られた時間のため、単刀直入に質疑をさせていただいた。
  まず使用済み核燃料を再処理しない背景や理由について伺った。それによると、「再処理は@再処理施設を整備すればコストがかかる、A再処理を他国に依存すると「自国処理」の原則に反する、B核兵器への転用懸念など外交政策への影響も出てくる」ということだった。極めて歯切れがいい。


  ウランといえども有限資源であることに話しが及ぶと、「地層処分しても、可能性として、将来使用済み核燃料を掘り返す議論もある。しかし政治的、技術的問題もあり、今のところは最終埋蔵と考えている」とのこと。地層処分後の再掘削という話しは聞いたことがないが、ここでは質疑を深めることは出来なかった。帰国後の課題としたい。
  原子力政策に関する国の基本政策は、政権交代や、エネルギー事情から微妙に変化したようだ。


  技術部門の責任者ベンクト・フェードバリー氏は、使用済み核燃料の深地層処分を担当されている。
  スウェーデンは1980年の国民投票で「原子力発電からの順次撤退」を国策としてきた。しかし代替エネルギー開発の問題などが浮上。CO2排出抑制などの課題から、新政権により2010年7月に、原子力発電の設備更新を認める方針に変更された。もちろん増設は認めていないのだが。
  スウェーデンは選挙の真っ最中だったが、原子力政策は国政選挙の争点になっているのかとの質問に対し、「原発に反対している人たちも、その安全性については理解が深まってきていると考えている。地球温暖化対策の観点からも説得力を持ち始めている。


  しかし今の選挙で革新系が政権についたら、現政権が7月におこなった政策転換(10基に限り原子力発電所の設備更新を認める方針)を変えると訴えている」とのことだった。これ以上の質問は、他国の政治状況への関与となるので控えさせて頂いた。

  国内4つの電力会社は共同でSKBという会社を設立している。そのSKB社が進めている深地層処分研究についても伺った。まず国と電気事業者の関係。
  @原発の推進及び廃止時のコスト負担は事業者、A許可と監視は国、B使用済み燃料は再処理せず自国処理、という3点の原則がある。


  SKB社は処分場の立地場所を、フォシュマルクという地方に選んだようだ。そこにおける住民や自治体の反応について質問したところ、「当初は反対もあった。しかし徹底した情報開示と話し合いにより納得した。 SKB社がすべてオープンにしたのが、成功した理由だと思う。例えば、環境団体をも巻き込んだ取組をした」とのことだった。我が国のように、原発や処分場立地自治体に立地交付金を国が拠出するという制度は、まったくない。
  深地層処分研究を進めている他の国、例えば日本との研究成果共有などは行っているのかとの問いには、「SKB社には、3年に一度レポートを国に提出する義務を負わせている。すべて公文書として公開もしている」との話しにとどまった。この場に限らず、通訳をとおしての質疑にもどかしさを覚える。今後の議員による海外調査は、議員自身の語学力も必要になることを痛感。


  今後のスケジュール及び、SKB社が行う地層処分の建設申請に対する国の対応などについても質問した。
  それに対して、「年内には申請が提出される予定だ。様々な検証を行わなければならないので、判断まで最低でも2年はかかるだろう」とのこと。最終決定は内閣でおこなわれる。建設開始は2016年頃ではないかとの話しも出た。
  国が建設許可を出してから地下500メートル掘削するのに約7年かかる。その後、再び地質結果の検証と認可という手続きもある。実際に処分が始まるのは、2026年頃という認識も示された。



  予定していた質疑内容には含まれていないが、原子力政策をめぐる国と地方の関係についても質問をさせていただいた。  これに関しては、やはり我が国同様に重要な案件に関しては国の専権事項としているようだ。ただし興味深いのは原発設置に対する自治体の拒否権。これは議会にあるということだった。これに対して、国には強制執行権があるという。
  もちろん強制執行の歴史はなく、計画のスタートからプロセスをオープンにし、住民参加のもとでものごとは進められているという。


  一部変更はされたものの、スウェーデンにおける原子力政策の枠(基本)法は、1980年に実施された国民投票で決められているということが、すべての基本となっている。原子力施設を建設する自治体に立地交付金を拠出する我が国とは異なり、計画当初からすべての情報をオープンにしておこなわれる国と住民との対話。
  地下水も少なく、強固な岩盤の上に生活するスウェーデン国民。もちろん地震はほとんどない。逆に我が国は、過去に何度もの大震災が発生した火山列島だ。新たに活断層も発見されている。
  幌延で行われている最終処分に向けた深地層の研究に対して、私たちはこれまで以上にしっかりとした監視を行っていかなければならない。



翌日へ

HOSHINOTAKASHI