HOSHINOTAKASHI

第三日  2010/8/23  
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行程

ストックホルム   終日

事情調査内容   @ストックホルム市役所
  A運輸研究所(市役所からの委託機関)

宿泊ホテル   HOTEL FIRST AMARANTEN
  Tel.46-8-6925200 
 

市役所訪問前に、ホテル周辺で

  街のいたるところで、トヨタのプリウスを見かけた。左の写真はタクシーだ。もちろん左ハンドルの現地仕様。
  日本国内では、エコカー補助制度期限もあり、生産が需要においついていないようだが、これだけの台数を異国で見せつけられると、大きな違和感を覚える。
  民間企業としてのトヨタの販売戦略と、国策としての環境対策は、どこかでクロスさせなければならない。

  たまたまドライバーに話を聞くことができた。「燃費のよさは素晴らしいね。僕も環境対策ができていると思うと、とても嬉しいよ」。スウェーデンの国民は、日本人に似てシャイだと聞いていたが、とてもフレンドリーな方だった。
  国は選挙の真っ最中であちこちにポスターが貼ってあったが、彼は「やっぱり環境について何を言っているかで政党を決めようと思っている」と笑顔の中にも真剣な眼差しで話してくれた。

  公共政策を確実にすすめるため、20世紀初頭から国や市は、土地を買い続けたという。最近は財政上の事情から売却なども行っているようだが、一時は国土の7割前後が公用地だったらしい。
  民間企業に貸与する場合も、環境対策の条件などをつけることが可能になるわけだ。緑地エリアを守るために公園用地を購入し続けたミュンヘンの基本政策を思い出す。そのダイナミックな発想は、今の日本では到底考えられない。
  写真は、街のいたるところで見受けられるレンタサイクルの駐輪場。日本の場合は観光地で盛んだが、こちらは日常生活用である。

ストックホルム市役所を訪問(午前)

  さあ、いよいよスタート。

調査項目は次の各点。何点かにしぼり質疑をしてきた。
@スウェーデンにおける地球温暖化対策の基本を聴取
A欧州環境首都について、その概要を聴取
B環境裁判所の機能と役割について聴取
C地域分散型発電の実態を聴取
D人口密度の高い都市部と、低い地方の取組の違いや特徴について聴取
E地域熱供給システムの実態を聴取
F再生可能エネルギーの内訳について聴取
G風力の利用が遅れているが、今後の方針を聴取
H固定価格買い取り制度の内容と問題点(種別ごとに価格差はあるのかなど)を聴取
I渋滞課金システムの制度内容聴取
Jポッドカーをはじめとする公共交通政策聴取
K公用車を含めて、カーシェアリングの実態と制度について聴取
  市役所では環境保健行政部の○○氏が私たちを歓待して下さった。
  滝口団長から、メンバーの紹介をおこなったあと、「日本では政権交代の後、総理も代わったが、温室効果ガスを90年比で25%削減するという国際公約は堅持している。成長戦略と環境政策を両立させているストックホルムから多くを学ばせていただきたい」と挨拶。さっそくプレゼンテーションと質疑に入った。

  まずスウェーデンとストックホルムの概要及び、地球温暖化対策の基本について説明があった。
  もともと人口密度が低く、グリーンも多い。ストックホルム県はストックホルムを中心に26の市で構成されているが、2030年までに、現在の人口およそ100万人が120万人程度に増加すると予測している。しかしその際、緑をつぶすことなく、住宅の高層化などをつうじて密集化を図るという。
  2030年までの長期計画をもっており、その中に環境を保全しながら成長していくことが記されている。もちろんゴミは埋め立てずに再利用する。さらに2050年までには、化石燃料からの全面撤退を目指すと言うから素晴らしい。


  「欧州環境首都」認定の経過と意義についてさっそく質問をさせていただいた。写真は真剣にメモをとる池本道議。
  「環境首都」認定のライバルは35自治体。@環境産業対策、A地域煖房、Bクリーンカー、C渋滞税の導入、D公共交通、E水質管理、F汚水処理、G緑地帯の整備、H空気の浄化、I騒音対策などの観点から、書類選考で8市に絞られ、最終選考で認定されたという。
  2050年までのカーボンゼロ計画が評価されたのだろう。ストックホルム市が環境首都に選定された具体的なな要因の一つに地域暖房があげられる。さらには私たちが翌日視察することとなっているハンマビー地区の取り組みに対する評価がある。


  将来の目標を決めたら、それを実現するための具体的行動に移らなければならない。
  ストックホルム市は短期5年計画及び、長期計画を同時に進行している。現状を変えるためには現状を把握していなければならない。
  まず対象となる企業にレポートの提出を義務づける。もし充分お金があった場合、どのような環境対策などをしたいかなどについてアンケート調査を実施。さらには企業の事業活動にとって、国の法律や市の条例が障害なっているかも聞きとることもおこなわれている。その意見を基盤に計画策定し、市議会で決定された内容となる。官民が同じ情報と意識にもとづいて環境対策を進めることを基本にしている実態が浮かび上がった。  地域で消費される化石燃料は17%程度。地域暖房は80%にも上る。残りは地熱を利用したヒートポンプを利用している。暖房費は家賃に組み込まれているので、市民は当たり前のように環境対策をおこなっているわけだ。
  写真は、ものすごい速さで質疑内容をパソコンに打ち込んでいく田島道議。彼とともにプレゼン会場にパソコンを持ち込んだ佐藤道議の二人がいなかったら、今回の視察効果は半減していただろう。テーマを頭に叩き込んだ上でのタイピングは一般の速記者には不可能なのだから。

  翌日視察予定のハンマビーモデルについても概要の説明があった。その内容については、明日の報告書で明らかにしたい。
  ただ驚いたことは、世界から注目をされているハンマビーモデルが、ハンマビー地区に限定されていないことだ。ここに続く同様の計画が現在2地区で進められている。ストックホルムの街づくりの基本は緑をつぶさないことにある。従ってこうした環境負荷を大幅に減少させる都市計画は、過去の産業用地を大胆に作り変えていくことからはじまる。配送者は街の一ヶ所に集約され、環境負荷を低減している。セントラルバキューム方式により、家庭ゴミは、収集車を使わずに集められている。札幌市北区のあいの里地区でも一部取り入れられているシステムだが、その徹底振りには驚かされる。
  写真は、「これほど大規模でなくても、北海道でも同様のモデルを是非実現したいものだ」と意気込む中山道議。
  先にも触れたが、ストックホルム市は1907年から、農地、港湾地区などの民有地を順次買い取ってきた。それにより、土地所有を背景に上物の規制を図れる。建設規制がかけられる。当時の行政と政治の先見性に目を見張らざるを得ない。

  人口密度が低い地域では、どうしても多くのエネルギーを消費せざるをえない。その対策などについて伺った。
  都市部に人口を集中して、エネルギー効率を高める取り組みも、北海道の将来を考えると大いに参考になる。
  興味ある取り組みとして、駅を利用する市民の熱を活用してエネルギー化するものがある。中央駅で25万〜30万の乗降客の空気を集めて熱源としているのだ。

  国と地方の関係もはっきりしている。スウェーデン全体としての環境基準を下回らなければ、地方として国以上の取組を行うことにまったく問題はない。
  地方議会では環境専門家のような議員が増えている。国の関与は最低限なのだ。写真は、取り組みに反対する市民や企業があった場合の対応などについて質問する梶谷道議。「最初の計画段階から反対者の意見も聞きつつ策定を行なっていくので、たいていのケースはクリアーできる。もしもの場合は、行政裁判となる。難しい問題は内閣まで上がるが」とのお話だった。
  環境裁判所の機能と役割については、残念ながら担当部署が違うということで回答は得られなかった。次の機会にしたい。

  渋滞税(渋滞課金システム)は、私たちの事前準備中から、興味を抱いていたテーマのひとつだ。都心部へのマイカー乗り入れを制限する政策である。制度の概要と効果について詳細に質問させていただいた。

  ストックホルムは、日本で言えば長崎のように島で出来ている。市の中心部へ行くには必ず橋を通らなくてはならない。
  そこで橋の部分にビデオカメラを設置し、通過する車のナンバーを記録。時間帯に合わせて課金する仕組みだ。制度導入により、公共交通と自転車の利用者が増え、車の利用は20パーセント減少させることに成功したという。温室効果ガスの排出も10%〜14%減らすことにもつながった。エコカーは課金を除外されるので、新規に車を購入する市民は、エコカーを選択している。わが国の免税や補助金によるエコカー導入促進とは違った手法も、大きな効果を挙げている現実を確認できた。
写真は、特に渋滞税に深い興味を持って今回の視察に臨んだ佐藤道議。
  当初、渋滞税は反対者が多かった。1990年頃から渋滞税導入の効果などを市議会に提出・提案していた。革新政権当時に社会実験として導入。。導入半年後に国民投票を実施。住民投票では肯定的意見が多かった。保守政権に変わったが、肯定的意見を踏まえ導入。現在は反対する人はいない。
  カーシェアリングについても伺った。ただし、言われているほどには進んでいないようだ。、市職員や政治家が率先して使わないといけないとの話だった。環境車を使ったカーシェアリングを徐々に整備し、年内にはさらに普及させるとの話を聴くことが出来た。


  渋滞税のおかげで、ラッシュアワータイムは77%が公共交通機関を利用している。地下鉄などの公共交通機関は、かつて市が建設・運営をしていたが、外部委託をし、一部は県が介入している。最近では中国も資本に参加しているようだが、時間の関係でこの部分は深く質疑できなかったのが、残念だ。
  ほとんどのバスが環境対応車だという。2011年には再生可能燃料を50%にする予定。2025年にはすべてのバスを再生可能燃料対応バスにする計画となっているというから、徹底している。
 1965年に道路を右側通行に変更した際、路面電車を廃止したが、環境にやさしいという事で、再び復活する流れにある。路面電車の延長を議論している札幌市とも共通点がある。
  写真は、ポッドカーを含む公共交通政策とCO2排出削減について質問する私、道議の星野。

  質疑はおよそ2時間に及んだが、市の取り組みが多方面に及んでいるため、必ずしも充分な時間ではなかった。
  120社程度がネットワークを組み、お互いの環境対策を検証し合う制度。市民を巻き込むため、雇用主に働きかける仕組み。市民モニター制度の活用で、すべての購入物の調査を実施し、消費動向を把握している実態など、質疑はどんどん具体的になっていった。
  エネルギーディを設定して、教育行政部と環境行政部とが連携していることや、学校現場に市の環境担当者が出向き、子どもたちに過去、現在、未来の話しをしている取り組みなども参考にする点が多かった。
○○氏を囲み、メンバーで記念写真


運輸研究所を訪問、次世代カー(ポッドカー)について意見交換

  市役所を後にした私たちは、ストックホルム市から依託を受けている運輸研究所を訪問。ハマー所長から、現在開発中のポッドカーについて発想、開発の現段階、世界の動向などについて質疑をさせていただいた。
  ポッドカーは、先のCOP15で紹介されたものだ。私たちはストックホルムのオフィスで説明を受けたため、文中に出てくるポッドカーの写真はハマー氏から提示されたホームページよりダウンロードしたもの。

調査項目は次の各点
@ポッドカーの実際を調査
A公共交通政策の展開により、渋滞緩和されたという交通実態の調査
ハマー所長を囲み全員で記念写真

  正直言って私たちは、ハマー氏から説明を受けるまで半信半疑だった。手塚治虫の漫画じゃあるまいし、「次世代カー」なるものは、まだまだ何十年も未来の乗り物という気持ちをぬぐい去れなかったのである。
  写真は、パワーポイントを使ってポッドカーの説明をするハマー所長。
  およそ2時間後、私たちは認識を大きく塗り替えることとなる。
  運輸研究所は技術開発だけを担当しているわけではなく、将来の環境都市づくりに向けたコンサルタントもおこなっている。ハマー所長は、「未来にビジョンを持ち、それに基づいて現在を変えることが大切」との信念を持たれている。
  市内にハイウェイが張り巡らされた街ではなく、いろんな人種の人々が、緑地帯を、そして水辺を自由に散策できるそんな街作りがストックホルムのビジョンだ言い切る。全体的にストックホルムでは環境に配慮したまちづくりを進め、CO2の削減を行っているが、トランスポートが遅れている。このことに着目をした結果、ポッドカー開発は進められているのだ。


  これまで、スウェーデンは、公共機関の整備に力を入れてきたが、一定程度収入がある人は車を購入してしまうのが現実である。バスや地下鉄の乗車人口、公共機関の整備をしても低迷し、自家用車の台数は増えているという現状であった。公共機関に力をいれたが、結局利用者が増えていない。そのことはデータを見ても明らかであり、1950年代は自動車の保有台数は5万台であったが、現在は400万台と増加している。もちろん自動車の普及が世界的に増加してきた中でスウェーデンのみが増加してきたわけではないが、900万人の人口の中で400万台という数は決して少なくない。
  そこでまずは、自動車のメリットとデメリットを検証した。メリットとしては、まず@行きたい場所に自由にいけるA人と合わないで隔離されている空間でいることで快適な時間を過ごすことができるなどである。デメリットは、@CO2を排出することで環境汚染につながるA渋滞にはまることで、思った時間につかないBガソリン代の高騰などによる経費の問題があることなどがわかった。それでは、どうしたら良いか、そのことを研究し、課税がなく、自動車よりも良いものを提供することが解決策であることに行き着き、自動車に変わるものとして、ポッドカーが提案された。
写真は、ポッドカーの公式ホームページから転載。

  ポッドカーのイメージは、自家用車と公共交通機関を足して2で割ったものといった感じである。時間表はなく、自分で行きたいところをコンピュータに入れて停まる場所を指定する。一方通行の線路を走り、ぐるぐる市街地を動いているイメージ。右の写真はストックホルムに巡らされたポッドカー路線網のイメージである。いわゆるタクシーに乗るようなものであるとの説明を受けた。自家用車のようにいつでも行きたい時にいけるようにするには、常に駅(停車場)に停まっている。


  使い方は、色々。ローカル地域であれば、そんなに路線網を使わなくていいし、地下鉄に直結できるようにつくることもできる。また、まち全体に張り巡らすことも可能である。ストックホルムとしては、20万人ぐらいの人口を前提につくるのが良いと研究がされいるが、4万人から20万人の人口規模であれば、可能なシステムであると伺った。写真は将来の完成予想図の一つ。ホームページより転載。


  ポッドカーの運行は、3秒間に1台、4人乗車、時速40キロ、動力は、電気。カードで精算でき、駅で停まる人と、停まらない人が選択できる。駅があるたびに線路が分岐し、自分の目的地以外の駅はバイパスを通過するように、どんどん行き過ぎていく。逆に自分が乗る駅に行けば、3秒に一台ポッドカーがやってくる仕組みだ。
  24時間対応できる。1時間で最高4800台。許容量でいくとバスと鉄道の間。路面電車は6分に1台。1時間で4000台。しかし、路面電車は、運転手や改札に携わる人件費がかかるため、ランニングコストは比較にならないほど安い。

  また、3秒間隔で動いているが、仮に前の車に事故があっても、3秒間の間にストップできるシステムを構築し、安全にも配慮。特徴としてポッドカーには、リニアモーターが鉄路についているため、エンジンがなく、騒音もなく静か、地上からはなれているため、それほど土地がなくてもいい。排気ガスなし、空港内に駅をつくることや、病院内に駅をつくることも可能。
  いわゆるポッドカー自体にエンジンがないので、寒いのではと思ったが、暖房システムがあり、動力の3分の1は熱暖房に使用、3分の2はポッドカーを動かす動力のため電力である。
  車の利用率が25%〜50%削減できると見込んでいる。

  ポッドカーのアイディアは、1950年台に生まれている。日本でも、1970年万国博覧会で実験しているとうかがった。
  これまで、スーデェルテリア地方では実用化実験を行い、ウプソラ地方では、テストバーナーとして、駅の実験を行った。線路はゴム。雪でも雨でも大丈夫。
  実験の結果、国の交通局がOKを出し、国からの補助金も使って、来年度8キロを建設予定。建設場所を募集したところ、4カ所が名乗りを上げた。これは全て国の土地にある。また、研究者や学生は車で仕事や移動する人たちではないので、有効である。
  建設に当たっては、韓国のスチールメーカー「ポスコ」が出資した。レールはスチールとゴム。支柱は、鉄かコンクリートでも良いが、ポスコは、スチールを選択。
  地下鉄の駅と地下鉄の駅を結ぶには最適。鉄路の駅につなげれば、学生がそれからポッドカーに乗り換える。
現在、カリフォルニアでもつくりたいと検討している。
  スウェーデンの考え方は、ポッドカーをつくるのではなく、ポッドカーシティをつくりたいということ。未来のまちづくりや環境に配慮したまちをつくりたいとのことだった。

  都市間距離のある北海道では、飛行機やJR、さらにはハイウェイバスなどと組み合わせ、都市内輸送の主役になる可能性を秘めていると確信した。万博におけるパフォーマンスだけに終わらせるのではなく、高齢者や身障者、子どもたちといった、いわゆる交通弱者の移動手段として、我が国においても実用化に向けた取り組みが必要である。国をはじめ関係機関に働きかけるべき技術とビジョンと言える。




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