HOSHINOTAKASHI


オーストラリア見聞録      2000.1.24〜27


■はじめに■

地球の裏側にある国、オーストラリアに行って来た。僕を含む道議三人、小樽市議一人、石狩市議三人の七名で構成する視察団は、それぞれの問題意識を持ちながら、成田より出国。
機中泊を除けば、現地三泊という、とてもハードなスケジュールである。

■1月24日■

車が左側を走る国
夜明けとともに、飛行機はオーストラリア第三の都市ブリスベーン上空に。
窓の下には、道を走る車が見える。
この国は、213年前に英国から独立したが、元首は今もエリザベス女王。欧州で唯一、車が左側を走るイギリスの習慣が持ち込まれている国である。
視察団の全員

とてもフレンドリーな市民

この国では、マイトシップという言葉がよく出てくる。これは、メイトシップ(仲間意識)がなまつたもの。
かつて、イギリスが大不況におちいり、失業者が街にあふれたとき、他人のヘアブラシ一本盗んでも投獄された時代がある。国内の牢獄が満杯となり、11艘の船に1000人の囚人を乗せて流刑の地、オーストラリア大陸に英国総督がやってきたのが、この国のスタートである。

そうした歴史を持つため、人々は互いに助け合いながら、生きていこうということで、皆とてもフレンドリーだし、人なつっこい国民性をもっている。

視察の公式目的は、港湾事情、とりわけ衛生管理と検疫態勢の調査だが、僕はその他に、街づくりと環境問題、さらには市民生活と歴史的背景の関係なども勉強したいと思って参加したチームなので、その土地の人々の在り方が、とても気になる。

オーストラリアは5つの州政府から成り立っているが、今日の訪問先ブリスベーンは、クィーンズランド州にある。

オーストラリア人は旅行を好むが、最近はオーストラリアドルが非常に安いので、ほとんどが国内旅行。その70パーセントがこの州にやってくる。
また、退職後はクィーンズランド州で暮らすのが夢だという国民が多いことからも、いかに、この地が魅力的かということを推し量ることができる。

コンセプトは「迅速」

訪れたブリスベーン港湾公社の事業も、こうした地域特性を十分配慮しながら展開されている。
港としての機能を高めるコンセプトは、なによりも迅速性といえる。入港してコンテナをどれだけ素早く列車・トラックで搬出するか、その逆も同様である。
そうすることが、他港との競争に勝つばかりか、食肉などの衛生管理に欠かせないからである。

環境団体との協議を行いながら埋め立て工事を行うため、港敷地の有効活用は重要な課題となる。
そのため検疫所など、離れた場所でも差し支えない施設は、どんどん港から切り離すなど、貨物のスピード処理にかける情熱は並々ならないものを感じた。

住宅街との天然の緩衝地帯は、マングローブが群生する湿地帯


環境問題と言えば、市街地と港は隣接しているのだが、両者の間にはマングローブが群生する湿地帯が、自然の緩衝地帯として横たわっていて、しかも公社は国際環境基準を取得しているなど、細やかな気配りを、各所に見ることが出来るのである。

スタッフ一同が、「将来は、シドニーを抜いて、オーストラリアを代表する港にしたい」と、胸を張る姿は、見ていて、たくましくもあり、すがすがしさもあった。
■1月25日■

時差が苦手な、牛と羊

ブリスベーンで目覚める。昨日は、到着後いきなりの行動開始であたためか、まだ外国にきたという実感がわかない。
早めの朝食後、バスで空港に向かう。南へ1000キロ離れた街、シドニーへ飛ぶためだ。

飛行機の中で、時計の針を一時間進める。日本とオーストラリアの時差は一時間だが、今は、サマータイムが導入されているので、さらに一時間ズレるわけだ。
なぜ昨日のうちに二時間進めていなかったかと言えば、ブリスベーンのあるクィーンズランド州は、農業州のため、動物の胃袋が、時差についていけない、そこで国の中で、同州だけはサマータイムを導入していないのである。
輸出産業の主要な部分を占める牛や羊のためなら、人間が我慢するといったところか。

動物園の移転

シドニーは、オーストラリアにおける文化経済の集積都市だ。昨年はオリンピックも開催されている。
この街も、とにかく緑が多く、いたるところに大型の公園が存在している。
中心市街地に隣接するモアパークは、100年前まで動物園だったそうだ。それを当時のモア市長が全面移転をし、パブリックゴルフ場やクリケット場など、市民の憩いの場として整備したため、その名がついた。



民間とお役所〜シドニー港の場合

視察先のシドニー港は、かつてイギリス移民団が発見した自然の良港として知られている。いっさいの掘削をすることなく、13〜15メートルの水深があり、5万トンクラスの大型船が楽に入港できるのだ。

現在、巨費を投入し14メートルバース建設にとりかかっている石狩湾新港としては、うらやましい限りだ。
商業港としてだけではなく、観光客も国の内外から多数受け入れるための港整備が進められていて、多面的な事業展開が特徴だ。
ただし、5年前に企業として独立したとは言え、州政府が100パーセント出資しているためか、私企業にある貪欲さは感じられない。
ブリスベーン港と比較したとき、両者の差は歴然だ。

港湾局は二つの港を効果的に使い分けながら運営をしている。つまり、自然の良港・シドニー港と、その南側にある人工的に手を加えて整備を進めているボタニー港である。

ヨーロッパにも似て

さて、シドニーも環境や景観にかなり気を使いながら街づくりを進めている。
シドニー発祥のロックス地域、つまりオーストラリア発祥の地では、190前のロンドン市街を見ることが出来るとも言われている。
古い歴史建造物は壊すことなく、州政府が買い取り内部補修をした上で、各種商店主に貸し出しをすることで、街並みが保存されているのだ。

もちろん、この地域は、ヨーロッパがそうであるように高層建築物は許可されず、もっとも背の高いホテルにしても4階である。

■1月26日■

道立劇場とオペラハウス

シドニーで迎える初めての朝。今日は建国記念日(オーストラリアディ)ということもあって、市内はかなり賑わっている。

昨日までの二日間は、ブリスベーン港・シドニー港・ボタニー港と、港の機能や将来戦略などについて、プレゼンを受けたり、現地を視察したりだった。

今日と明日は、文化・スポーツ施設及び街づくりについての研修だ。
まずオペラハウス。
北海道は今、道立劇場の建設に着手している。
残念ながら、オペラ公演には、採算性からして対応しないものとなるが、本当にそれでいいのかという疑問が、シドニーオペラハウスを視察していて感じた。
高橋一史団長(手稲区選出道議)と

危機を救った宝くじ

岡本太郎も応募したとされる設計コンペ。世界の建築家が、その知恵を絞ってつくられた設計図に基づき建築が始まるが、毎年変更が行われ、予算は膨れ上がる一方。ほとんど工事続行が不可能と思われたのが、今からおよそ30年前のことだ。
あわや工事凍結かという時、発案されたのが「オペラハウス宝くじ」だった。毎週行われる宝くじ発売に、シドニー子の人気が集中。見事に完成したのである。

「文化とはそういうものです」

オーストラリアは、広大な土地に大都市が点在している。そのためか、何か事を起こそうという時の都市市民の結束力は、極めて強いと聞いた。
似たような都市構造を持つ北海道も見習いたい。
この日は、建国記念日のため、オペラは公演されていなかったが、施設稼働率は年平均で、イタリアのスカラ座をしのぎ、70パーセントを越えている。
それにもかかわらず、収益は30パーセントの赤字だという。

「文化とは、そういうものです」と断言する現地説明員の言葉が、印象的である。

かつてゴールドラッシュがあったとき、「金を掘り当てよう」という大量の中国人移民があった。そのため、シドニーには大きなチャイナタウンがある。さらにそこからの魚需要も多いため、漁港も発達していて、街の活性化に寄与している。




「観光立国」と「環境立国」

移民政策によって人口減少をくい止め、今日にいたったオーストラリア。無鉄砲な開発ではなく、環境や景観に配慮しながら進めてきた街づくりが、世界の観光客を惹き付けるのだろう。
観光立国をめざす北海道には、参考にすべきことが多い。

■1月26日■

世界のNAOKOを受け入れた競技場は、太陽光発電

シドニー、二日目の朝。早いもので帰国の日だ。さまざまな環境配慮がほどこされているという、オリンピック施設を見に行く。
スタジアムに続く道路には、道路境界とは違うブルーのラインがある。マラソンコースを示しているのだ。
会場には、メインスタジアムをはじめ、多数の施設が点在。施設工事を発注するにあたり、入札基準のひとつに「環境にどれだけ配慮しているか」が明記されていたという。
かなりの電力を必要とするが、電源の50パーセントは、街路樹のように並んだ太陽光パネルに依存している。ちなみに、オーストラリアは、原発の存在しない唯一の大陸である。
スタジアムの屋根にたまった雨水は、すべてフィールド地下にある4っつの巨大タンクに集められ、すべての施設内トイレ用水に転用されている。また、12,000の観客シートは、4分の1がリサイクルプラスチックが使用されている。
一貫した環境ポリシーが、実感出来る。



カエルのために、整備を中止

施設内を走る道路の右側に、かなり大きな窪地が。しかもいっさい手が加えられていない。谷地のようである。聞くと、ここも整備予定地区であったが、希少動物のカエルが棲息していて、その絶滅を防ぐために、そのまま保存することにしたそうだ。
来月の道議会で、北海道も「希少動植物保護管理条例」を制定する予定だが、保護の実効性を確保するためには、ここまでの勇気が求められている。

復元した湿地帯に、釧路からの直行便

釧路湿原と姉妹提携を結んでいる、ニューカッスル地域の湿地帯。このエリアは、かつての開発で一度埋め立てられたが、再度掘り返し、見事に湿原を復活している。
ここには、「オウジシギ」というヒヨドリ程度の鳥が、越冬のために釧路から飛来する。常識的には東南アジアで一度羽を休めるものと考えられるが、その地で「シギ」は発見されていない。
渡り鳥の連続飛翔距離からして、「常識的にはありえない」と、専門家も首を傾けるが、釧路とシドニーを直行便で結んでいるとしか、考えられないのである。
湿地の復元がなければ、見ることができない現象のひとつだろう。


世界三大ビーチのひとつとして知られるボンダイビーチ。ここは、ライフセービング、つまり救命隊発祥の地として、有名だ。オーストラリアは上空は、オゾン層が極端に少なく、紫外線は日本の5倍に達する。その為皮膚ガン対策が、多方面で施されているという。海岸に設置されたプールもその一つかも知れない。

この国では、政府公認ビーチの条件が3っつある。
@淡水プールを設置してあること
Aライフセービング施設があること
B沖合に鮫よけネットが張り巡らされていること
である。

歴史の浅い国が、輸出や観光で立国していくための努力を、かいま見た四日間であり、しかも国の方向が、人間中心・環境中心と、はっきりしていることを、感じ取った視察の旅であった。

HOSHINOTAKASHI