HOSHINOTAKASHI

第六日  2010/8/26  
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行程

コペンハーゲン   終日

事情調査内容   @欧州環境庁訪問(午前)
  Aコペンハーゲン市役所訪問(午後)

宿泊ホテル   KALVEBOD BRYGGO
  Tel.45-33-389601
 

欧州環境庁(午前)

  いよいよ調査最終日。庁舎壁面を、植栽により欧州地図を浮かび上がらせるEU環境庁に出向いた。

調査項目は次の各点
@EUを構成する各国の取り組み現状を聴取
A固定価格買い取り制度に対する各国の考え方を聴取
Bスーパーグリッドシステムの概要を聴取
CUとしての地球温暖化対策の基本を聴取


  さすが25カ国語で仕事をされているEU環境庁だ。概要をとりまとめた日本語版の書籍を団長に進呈して下さった。
  スコットランド出身のポールマキュベリー局長から、さっそくEU環境庁の生い立ちと仕事の内容について説明を戴いた。
  それによると、環境庁は構想から4年の議論を経て、1992年に設立された。200人の職員で、「なによりも機能的に迅速な仕事をすること」を基本としている。クライアント(業務対象)は、加盟各国、EU各委員会、閣僚会議だが、もちろんエリア内市民に対する情報提供も環境庁が行っているようだ。
  環境関係はコペンハーゲンに、食料関係はイタリアに、医薬品関係はロンドンにと、それぞれEUの横断的庁を所在地としてもっている。EUの存在が見られるように、各所に庁をおいているわけだ。


  仕事にあたっては、@独立して仕事をする、A統計数値を分析する、B機構変動を理解してもらえるように解説する、Cネットワークを構築する、を基本としている。スクリーンに映し出された画面上では、クモの巣の真ん中にデンマークがあるような、まさにネットワークそのものである。
  環境庁の特徴は情報収集が独立していることで、情報を一括してメディアに対して流している。例えばデンマークが環境会議に出席する際、環境庁がもっている生の情報を流していることとなる。
  現在、所属しているのは32カ国で、6か国(バルカン諸国)はメンバーになろうとしている。メンバー諸国の会議は一年に3度、環境庁に集まって会議をしている。ヨーロッパ人であることであることの自覚意識が高い。年間の予算は、4000万ユーロ(40億円)。200名のスタッフで、環境問題の全てを扱う。気候変動、水問題、廃棄物問題など多様。200名のスタッフに対して、各国各担当の人が情報をくれている。
  例えば、ヨーロッパ各地の空気の質が各国で調査されて、数時間で環境庁で分析して、もどすことができる。


  気候変動については、責任者のディション氏からお話しを伺った。
  「温室効果ガスについては、1990年から力を入れて取り組みをしている。モニタリングし、レポートをだす。温室効果ガスの排出権取引のスキームも私たちが提案している。交渉して情報をつかむようにしている。温室効果ガスと空気の汚染の関係について調査している。私は、報告書の作成を受け持っている。同時に、内部にはユニット、つまり、干ばつ、洪水などを、モニタリングしてレポートを出す。まさに科学と政治の橋渡しというところだ。京都議定書に対する各国の取り組み、再生可能エネルギーに対しての各国の調査に取り組むでいる」


  1990年代前半には、それほど進んでいなかったCO2削減が、2000年前後に顕著になってきた理由をお聞きすると、「東欧諸国のEU加盟問題が影響しているようだ」との分析結果を示して下さった。ただし2003年からの現象は、経済状況の悪化に伴い、運輸関係から排出されるCO2が減少していることも原因のひとつと考えられるようだ。
  今後は、排出権取引、森林による吸収、各国における固定価格買い取り制度の活用などにより、京都議定書の目標にEUは到達すると思うとの認識が示された。


  ここでも、EU諸国内における原子力発電の取り組み状況を伺った。「原子力発電後の核廃棄物の情報については持っているが、原子力政策については、それぞれの国の判断によるところ」とのお答えにとどまった。
  再生可能エネルギーの導入促進については、2020年までに到達すべきあるヨーロッパ全体で同じレベルの政策目標をもっている。それによって、お互いが切磋琢磨しているところだという。
  EU全体でも、交通機関から排出されるCO2の削減が今後の課題のようだ。そのために、車の効率をあげる、燃料の質を変える、交通機関の再生可能エネルギー導入率を上げる、などの取り組みが進められているという。技術的なものだけではなく、人間の精神的なものも必要と最後に強調されていた。


  ここは、日本にいて私たちが理解していたものと少し違う機能を持っているようだ。つまり、加盟各国の利害を調整したり、あるいは指導したりする機関ではないのだ。すべての情報を収集し、それを公開する。加盟各国の取り組みは尊重するが、取り組み結果は情報として共有されるので、各国におけるさらなる取り組みの強化が促されるというところだろう。
  私たちが中心となり制定した「北海道温暖化防止条例」の趣旨のひとつもそこにあった。つまり誰がどれだけのCO2を排出しているかを開示することで、お互いが検証し合い、あらたな取り組みを促すという点は類似している。同条例を今後運用していくにあたり、極めて力強い味方を得た、EU環境庁訪問であった。




コペンハーゲン市役所

  最後の調査先、コペンハーゲン市役所を訪れた。市長が私たちを出迎えて下さる予定だったようだが、あいにく市議会が会開中のため、かなわなかった。
  実は、コペンハーゲン市役所こそ、今回の海外事情調査の中でもっとも深い問題意識をもってきた場所だ。再生可能エネルギーの取り組みで、世界のトップランナーと言えるからに他ならない。

  出国前に、道民のみなさまにお示しした調査テーマ。下記項目からいくつかを選択して、質疑することとなる。
@デンマークにおける地球温暖化対策の基本を聴取
A地方都市が風力発電機を設置した場合、税制上の優遇措置などの有無について聴取
B原子力発電を選択していない理由と背景を聴取
Cエネルギー強度(※)はEU中、もっとも低いが、省エネの特徴的な取り組みを聴取
D省エネ促進において、事業者(CO2排出者)の考え方をどう反映したかを聴取
Eカーボンマイナスを実現した○○島の取り組み概要を聴取
※国内のエネルギー総消費量をGDPで除したものであり、経済のエネルギー効率を表す


  コペンハーゲン市では、技術環境省所属の「気候コーディネーター」トーマス氏から昨年度採択した気候行動計画の説明を受けた。写真は、質疑後、すっかり意気投合した滝口団長と、トーマス氏。

  「コペンハーゲンは、決して大きい街ではない。しかし、世界で最も環境に力を入れている市として頑張っている」と、トーマス氏は自負する。小さい市や国でも、環境政策に力を入れて、世界のコペンハーゲンとして、全世界から注目を浴びることに誇りを持っているわけだ。現在でも、デンマーク、コペンハーゲンは他都市と比べて、CO2を排出している量は決して多くない。それでも、さらに地球環境に優しく、なおかつ経済活動を進めていく取り組みを精力的に展開している。その内容を伺ってきた。
  まず、コペンハーゲンが目指す姿、その基本について伺うと、「コペンハーゲンのアジェンダは、@世界一の自転車の国になること、A世界の環境政策の中心になること、Bグリーンとブルー(緑と水質を保つ)の都市になること、の3点です」と明快な答え。
  市では、今回のCOP15が開催される前に、「2005年比で、2015年までにCO2を20%削減するという計画をつくった。そしてそのために50の具体的な行動計画を策定、その柱として、次の6つのジャンルを挙げている。@エネルギー分野、A交通運輸分野、B建築分野、C市民生活分野、D都市開発分野、Eその他だ。詳細については現在策定中であり、2年後には明らかに出来ると言うから、楽しみだ。
  環境部門だけで、行動計画は実現できないことから、国家レベルでの政策も展開されている。例えば、@洋上風力発電を設置し、その利益を環境政策に投資する、A電気自動車の減税を2012年までの期間限定で実施する、BEUの提示した環境指令にのっとった政策を並行して行っている、などだという。


  コペンハーゲンは、地域暖房の市として有名であり、99%の地域が地域暖房である。その地域暖房は、廃棄物を焼却するゴミ処理場からの廃熱を利用している。また、コペンハーゲン市は、自転車での通勤通学の利用が市民の37%に及んでいる。
  デンマークの一人当たりのCO2排出量4.57トン、コペンハーゲンは3.16トン 特徴は、自動車を保有している人が少ないことと、住宅の面積が少ないことである。
  私たちは、「2005年比で2015年までに20%のCO2を減らしていく場合、それぞれの分野ごとの目標はどうなっているのか、そしてそれは具体的には何をどうするのか」と質問した。
  まず、分野別目標は、@エネルギー分野75%、A交通運輸部門10%、B建築分野10%、C家庭分野4%、D都市開発分野1%、ということだった。
  さらに、「計画をした50の施策のうち、35の施策が着実に実行されており、その都度チェックしながら行っている。また、1年に一度、年次報告書を作成おり、どの地域でどのような効果が上がったか、市民に報告している」とも付く加えられた。
  具体的な手法を伺うと、
●エネルギー分野75%削減の内容
  どの国や地域でも同様と思うが、コペンハーゲンでも、エネルギー分野でのCO2の排出量のウェイトが大きい。コペンハーゲンは石炭による火力発電時におけるCO2排出量が多いことから、今後はバイオマスの積極活用を推進していく。バイオマスは、チップ、麦わらを活用する。また、洋上の風力発電も引き続き設置していく。風力発電は企業と市民組合が設置を行っている。市民組合は、風車を設置し、株を発行、株主配当もあり、それは非課税である。また、一キロ当たり、25円。補助金を政府が出している。風力発電の企業と市民組合の割合は、75%が企業で市民組合25%ぐらいである。
また、すでに実施されているが、地熱によりお湯を生産し、地域暖房を行っている地域もある。(アマー地区で実施)


●交通分野10%削減の内容
  まずは、自転車の積極的利用と、公共交通機関の整備による公共交通利用の拡大を目指す。バス会社については、CO2削減25%を要求し、ゴミ回収車については燃費改善なども求めている。
  ロードプライスも考えており、市内に入る自動車に対し使用料金を課したいと考えているが、市が独自にはできないので、国の許可を得て実現したいと考えている。
  また、夜に風が吹いても、風力発電を蓄電する技術がないので、多くの人たちに電気自動車を乗ってもらうようにして、夜間に充電をしてもらうようにしたらどうかと現在考えている。
  説明の途中だったが、私たちは、交通運輸分野での取り組みに対する、市民の反応についても聞いてみた。
  トーマス氏は笑顔で、「環境政策を行うことでメリットが出てくる。自転車や公共交通機関での移動が増え、自動車が少なくなると、例えば、@騒音が少なくなる、A空気もきれいになる、B健康的である、C生活習慣病予防にもつながる、など市民にとってもいいことなのだ」と答えて下さった。
●建築分野10%削減について
  まずは、ホットマッピングと言われる上空からの撮影で、地域ごとの断熱の効率をみる装置を使って調査し、その後、エネルギー効率を良くする施策を構築していっている。
  また、市内の事業主に対してコンサルティングも行っており、建物の改築や改善を推進している。また、そういったことを行うことで、室内の空気の改善もされ、健康改善にもつながり、子どもたちも学習がしやすい環境になっているという。


●家庭分野4%削減について
  どんなことでもいいので、小さいことから、市民に着実に実行してもらうことが大切である。市民には、気候弁護士になってもらって、環境情報を広げてもらう役割を担ってもらう。また、一般企業とともに、政策を形作っていくことも大切であり、会社の中でも、コンピュータの利用を制限して、CO2の削減を実行している。また、結果として、企業も経費節減につながるというメリットもある。
●都市開発分野1%削減について
新築住宅の建築、交通、住宅、学校において、エネルギー消費が少なくなるよう都市開発を策定し推進していく。新規の建物については、コペンハーゲン市の「低エネルギークラス1」を提唱しており、これは政府における国の施策よりも基準を下回るものである。
  最近は地球規模で異常気象が発生しているが、それに関係する環境政策についても質問をさせていただいた。
  トーマス氏は、「コペンハーゲンでも、気候が変わってきていると実感している。2週間前に豪雨があり、大雨により通行止め等が発生し、被害があった。コペンハーゲンは下水道施設も良い方であり、雨水などの被害もそれほどないが、今後は、雨水の管を公園や緑地帯につなげて、有効利用していくことも現在考えている。また市内の集合住宅の屋根に、植栽帯をつくり、屋根からすぐに雨が流れないようにすることも考えている」とのことだった。



  日本でも有名なカーボンゼロの島について伺った
  「おたずねのサンチュル島については、再生可能エネルギーに問題意識をもつ様々な方からご質問を受けます。ご指摘のとおり、CO2ゼロの島です。この島は、風力発電が基本ですが、バイオマスによる地域暖房もおこなっています。これは、コペンハーゲンエネルギーの独立行政法人が地熱発電を開発したものです。詳細については、英語の資料をいただいたので、帰国後翻訳をして参考にしたい。
  私たちは、「日本においては、環境保全と経済発展の関係がひとつのテーマとして議論されている。コペンハーゲンにおける高度成長の時、企業からは抵抗はなかったのか?」と質問した。
  トーマス氏は、「環境税導入に企業は反対した。国会で多数で可決したため企業もしかたなくというところも確かにあったが制度はスタートした。その後、環境税の導入によって省エネが進み、結果として企業の経費削減にもつながった。また、企業のメージアップにつながった」というお答えを頂くことが出来た。
  1990年から2005年までで、CO2の20%削減に成功しているが、実はこの期間は、GDPが66%増大した期間でもあったというから驚異的である。


  国内のエネルギー総消費量をGDPで割った数値、つまりエネルギー強度が欧州では一番低い原因について伺った。つまり省エネを進めながら、経済発展を成し遂げたわけで、我が国においても非常に参考になると考えたからである。
  これに対しては、地場企業が積極的に、環境ビジネスへと事業転換を進めている説明があった。企業も様々な商品を開発してきている。例えば高断熱の窓、新しい断熱材、節水機器などを開発している。
  具体的な企業名も紹介された。かつては農機具メーカーだったが、今では世界中に顧客を持つ「風力発電の会社・ベスタス社」、「熱効率をよくするポンプ会社・ダンフォス社」、「断熱材の開発を成功させた会社・ロックウール社」などだ。
  2025年までのCO2ニュートラル計画の達成は自治体の取り組みだけでは達成することはできないので、エネルギー産業、交通企業等とともに達成していくことが、重要という。建物「低エネルギークラス1」を実施し、将来的にはインテリジェント電気消費システムを目指し、いつ電気を使うかで、電気料金を変え、風力発電を使っての電気使用は安くすることを目指す。また、新エネルギー、バイオマス、地熱、風力、太陽光も積極的に政策を打つとも言われた。
  さらに、将来的には高度テクノロジーにより様々な環境に配慮した製品等の開発が加速することが予想され、水素自動車や電気自動車の開発、普及も目指していきたいとのことである。一方で、建物のエネルギー効率を良くするための、改造や改築もしっかり行っていくことも重要である。
  デンマークが、CO2対策として原子力発電を選択していない理由と背景についても、お伺いをした。
  トーマス氏は、「政府は導入しないことを明言しており、市民からの反対の声も多いことから、導入の再検討もされていないのが現状だ」と明言された。しかしその上で、「実際には、スウェーデンからも電気を買っている。スウェーデンでは原発による電気供給をしているため、原発生産のものあることはいなめない状況であり、複雑である」と、今後の課題についても正直にお話を戴いた。

  最後に夢のあるお話しを伺うことが出来た。コペンハーゲンは、2020年に20%削減の目標が達成した場合、市庁舎前で、たくさんの花火を打ち上げ、お祭りを開催し、市民みんなでお祝いをするというのだ。
  10年後、遠く北海道の地から、そのお祭りをお祝いしたい旨をつげ、市役所を後にした。
 



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