HOSHINOTAKASHI


嫁を借りる


 「おまえも、嫁さん、もらう年になったか」―こんな会話は、どこでもよく聞かれる。ごく普通の表現であり、何の違和感もない。
  ところが、アイヌ民族では、そうは言わない。数年前に、参議院議員だった萱野茂さんから聞いた話では、彼らは「嫁を借りる」というらしい(「もらう」とか「借りる」とか、女は物じゃない、と小原さんあたりから怒られそうだが、あくまでも習慣の話なので勘弁して)。
  借りてきた嫁さんだから、奥さんの実家から「返せ」と言われないように、夫は妻を、それはそれは大事にする。女の側も、「おまえはもう、返す」と言われないように、とっても、夫を大事にする。
  萱野さんは、笑いながら「僕は結婚して50年経った今でも、妻を実家から借りているんです」と話してくれた。ちなみに、萱野夫婦は、とても仲が良い。
  政治にも、似たようなことが言える。「自分は、選挙で選ばれたんだから、何をやってもいいんだ」と、思った瞬間から、その人は有権者(先ほどのたとえ話で言えば、妻の実家)から、「もう、やめてくれ」と通告されるのである。
  自分を選んでくれた有権者は、今、何を求めているのか、何を求めていないのか―その「意向」にしっかりと耳を傾ける必要がある。


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