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動く歩道と炭鉱閉山 (2001.12/17) |
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人差し指の上に載せたコインを、親指の爪で思い切り弾く。クルクルッとまわりながら真上に飛び上がったコインは、力つきると、同じ軌道をたどって真下に落ちてきて、手のひらに吸い込まれる。
他愛のないことだが、これが極めて不思議なことなのだ。
例えば、動く歩道に乗りながら同じことをやってみる。本人にしてみれば、垂直に上下するコインの動きは、まったく同じだ。ところが歩道の外にいる人から見れば、コインは歩道が動く方向に斜めに上がり、斜めに落ちてくる。いわゆる放物線の軌道を描くのだ。そうでなければ、手のひらに戻ることはないのだから当然である。
そればかりではない。この動く歩道が、航海中の大きな客船の中にあったとする。すると、歩道自体が船とともに動いているので、岸にいる人からは、さらに違った軌道が目に入ってくる。 地球は猛スピードで自転しているが、仮に地球の外から豪華客船の中を覗くことができるとすれば、もっと複雑な軌跡をたどることになる。
それぞれの人にしてみれば、決して見間違いや錯覚ではない。目の前にあるれっきとした現実であり、事実なのだ。
つまり、自分がどんな立場にいるかによって、物ごとは違うことになる。
十二月七日、太平洋炭鉱は、「このままでは経営は無理」と、労働組合に閉山を提案。労組側も、「やむなし」との態度を決め、退職金や再就職問題など、条件闘争に入ることを決めた。
議会で、担当委員会の委員長をつとめる僕は、知事や釧路市長といっしょに、様々な対応をとった。そのひとつ、小泉首相に新会社設立などへの支援要請をおこなった日のことだ。
開口一番、彼は言った。「時の流れかなー」
民間企業とはいえ、国策にもとづいて日本の経済やエネルギーを支えてきた炭鉱。我が国最後の炭鉱となった太平洋炭鉱の閉山で、千五百人の労働者がいっぺんに解雇される。関連産業への影響は計り知れないものがある。
ダメージを最小限にしたいと、猛吹雪をついて上京し、実状を訴える地元市長の耳に、「時の流れかなー」は、どう響いたのだろう。
中央と地方は、動く歩道の外と内ではないはずだ。
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