HOSHINOTAKASHI


女性の「うぶ毛」と飛行場(2000.11/7)


  学生の頃、僕はいつも真っ黒いメガネをかけていた。顔を隠すためではなく、強い日差しから目を守るためでもない。
  どうしようもなく沈み込んだときなど、深呼吸をしてからメガネをはずすと、世界は一変した。眩しいくらいの周囲が、僕を解放する。たった今まで悩んでいたことが、既にどうでもいいこととなってしまうのだ。
  「緩衝材」としての、黒いプラスチックの外側と内側。それを使い分けることで、僕は、自分自身が壊れるのを防いできたのである。

  札幌丘珠にある飛行場は住宅街と隣接している。そのため市は、来年からおよそ十年をかけて、空港と周辺地域を隔てる「緩衝緑地帯」を設置する計画をたてた。55ヘクタールに及ぶ広大な事業であり、総額で百八十億を超えるものとなる。
  札幌市は道に対して、応分の負担を求めている。だが、道は今のところ、「空港周辺整備としての街づくりに補助をする理屈はない」と素っ気ない。

  北海道は、道内経済を支える基盤施設のひとつとして丘珠空港を位置づけている。そうであれば、騒音に悩む周辺住宅街と共存するための環境整備に、道が財政支出をするのは当然ではないか。

  女性の顔には産毛がはえている。これはファジーと呼ばれるらしい。湿度差が激しい外界から肌をまもるための「緩衝ゾーン」だ。ファジーという表現は一時流行った。曖昧という意味だ。どこまでが肌で、どこからが空気なのか、その境界を曖昧にすることで、肌の湿度を一定にし、美しさを保つのである。

  ファジーの否定は、細胞の死を意味することを、道は知るべきだ。


HOSHINOTAKASHI