HOSHINOTAKASHI


ペンキをかけられた透明人間 (2004.1/11)


 「あ、電話がかかってくるな」。携帯がなるちょっと前に私は気づく。

 別に予知能力があるわけじゃない。パソコンの画面がブルプルっとふるえるのだ。もっとも液晶の場合はこんなことはおきない。
 ブラウン管はフラスコを横にしたような形をしているが、あの細いところにある電子銃から、電子がつぎつぎ飛び出す。それがフラスコの底、つまり私たちの見ている画面の裏側にぶつかるわけだが、そのままだと、絵は何も映らずに中心部分が点滅するだけだ。
 ところが電子銃とブラウン管の間には、信号によって磁力をコントロールできる装置があって、電子をそれぞれ引っ張り合っている。それによって進路を変えられた電子が画面のあちらこちらにぶつかり発光することで、送られてきた信号どおりの画像が映し出されるのである。

 そこに思わぬ横やりが入った。それが呼び出し音が鳴る直前に携帯に届いた電磁波というわけだ。この電磁波はブラウン管の中の電子に影響を及ぼすので、電子は予定通りに進まず画面が乱れるのである。

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 雪が降る前、落ち葉が竜巻のように舞い上がるつむじ風をときたま目にする。秋だけのことと思いがちだが、そんなことはない。
 特に高層ビルが増えてから風向きが変わり、いつでもどこでもグルグルと回っているようだ。だけど残念ながら、色がついていない風の動きは見えない。

 透明人間にペンキをかけたのに似て、落ち葉がつむじ風の存在を私たちの目に見せてくれているのだ。そこで、街に落ち葉があふれる秋特有の気象現象なのかと勘違いしてしまうわけである。そういえば春の終わりに、桜の花びらがつむじ風を教えてくれることもある。あれは見事だ。

 つむじ風は空気の流れのいたずらだが、風がなくても私たちのまわりは揺れている。
 閉めきった部屋の中で、煙草に火をつけてみよう。煙草からあがる煙は、方向もまちまちに、好き勝手に激しく、あるいはゆらゆらと揺れながら、やがて拡散していくではないか。
 大気中のさまざまな分子は、空中を自由奔放に飛び交っているのだが、もちろん目には見えない。そうした激しい動きが、粒子である煙草の煙にぶつかり、風もないのに煙を妖しげに振動させる。
 たしか中学の理科に出てくるブラウン運動というやつだ。

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 私たちはつい、見えているものだけで事態を判断しがちだ。だが本当のことは見えないところで進んでいることが多い。
 例えば自衛隊のイラク派遣に関して、政府は報道規制を行おうとしている。国民には真実を知らせないという、軍事行動に関する報道統制は、いつの時代も戦争についてまわる。
 本当に復興支援に行くのか、参戦国として戦場に赴くのか。隠そうとすればするほど、真実が透けて見えてきそうだ。

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 ちなみに、テレビを近くで見たりパソコンに向かいすぎると、電磁波障害を起こすと言われているのは、ブラウン管をすり抜けた素粒子が人体を射止めるからである。


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