HOSHINOTAKASHI


止まらない目覚まし時計 (2002.2/11)


 量販店が全盛だ。
 パソコン、ビデオ、デジカメなどが、広いフロアーにひしめいている。そして確かに、安い。
 これだけ安売りされたら、地域で何十年もやっている「となりの電器屋さん」は、とても太刀打ちできないだろうな。そんな思いが、ずーっとあった。
 次々と押し寄せる大型店の波に飲み込まれ、店を閉めざるを得ないケースもある。しかし、しっかりと地域に根ざしている小売店も、数多い。

 一つひとつの店を訪ねてみて、「なぜ、やっていけるんだろう」という僕の疑問は、いっぺんに解決した。

 近所のお得意さんから電話がなる。「あんたの店で買った電話機、音が止まらないから、すぐ来て」。行ってみると、鳴り続けていたのは、受話器のとなりに置いてあった目覚まし時計だった。
 こんなエピソードは、後を絶たない。
 アフターサービスというよりは、商売を越えた付き合いが、地域の小売店を支えている。

 景気が回復しない。個人消費が伸びないところに原因があることは、誰もが指摘している。
 将来の不安、仕事の不安があるうちは、市民は安心してお金を使えない。制度としてのセーフティネットを用意するのは、政治の役割だろう。
 しかし、人間と人間の機知に触れる、安心の網の目をつむぎ出す努力は、地域社会が担っているのである。

 「近所のお客さん」は、とかく我が儘だ。トラブルに発展することもあるが、すぐ仲直りする。
 「ビデオが壊れたから、すぐ来て」という電話。「じゃ若い者を走らせる」と応えれば、「いつでもいいから、あんた来て」と。
 ほほ笑ましい光景だ。

 かなり高齢のおばあちゃんも、お得意さんにいる。家の中は、所狭しと、その店で買った電化製品がならんでいる。


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