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旅の目的地(2003.1/1) |
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大晦日それも夜の六時すぎ、歯医者に行くことになった。
すでにビールを飲んでいたので、タクシーで北大の裏通りを走る。すごく暗い。闇の中の木立にはそれぞれ雪がのり、まるで白黒写真の世界、というか切り絵の中を進んでいるようだ。
突然歯が痛みださなかったら、あるいは快く時間外治療を引き受けてくれなかったら、けして見ることがなかった幻想の世界。一年が一冊の本なら、オプションで一ページ得をしたような気分で、座席に背を沈める。歯茎を縫合した糸が、口の中でプランプランしている現実とは別世界だ。
ジグソーパズルにはコツがある。どんなにたくさんのピースがあっても、直角のカドを持つそれは、たったの四つ。あとは一辺が真っ直ぐな破片を集めて、台紙のふちから少しずつ埋めていく。
でこぼこながら、ひととおり周囲がはめ込まれると、まるで小児歯科の宣伝にでてくる子どもの味噌っ歯のようだ。
高層マンションが一本また一本と建っていくにつれて、空がどんどん削られていく。しかも虫歯さながら不揃いに。かなりグロテスクではある。
その様は大空という台紙に、ジグソーパズルのピースが端から積み上げられていくのに似ている。
「海はどうして青いの」という問いに、「それはね、空の色が映っているんだよ」と答える童話があった。しかし人は今、自ら空を締め出そうとしている気がしてならない。
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旅が好きだという人は多い。それは新しい出会いを求めたり、まだ見ぬ風景に憧れたりということからだろう。青い鳥によれば、目的地は案外、出発地にあるものである。
都会を逃れて、自分を探す旅に出るのもいい。しかし高度成長時代が終わった今、都会の中にこそ「旅の目的地」を創り出すことが必要ではないだろうか。
都会の中でのちょっとした発見、ほんの少しの驚き、そんな心の動きを大切に出来る一年にしたい。
そういえば、ススキノで驚いたことがある。確か山崎と言うバーだったが、客の横顔を見る見る切り絵にしていくのだ。ラシャ紙を二枚重ねて切り、一枚は店に保存されている。
「えっ、この人も来たの」というシルエットがギッシリの店だ。
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