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にせ者の出張者 (2001.11/12) |
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「お仕事ですか」〜愛想のよさそうな、寿司屋のオヤジが口を開いた。
仕事の打ち合わせで、すすきのまで出たが、一時間ほど早すぎたので、ちょっと立ち寄った狸小路の寿司屋でのことだ。時間調整なので、卵焼きとイカを少しつまみながらビールを飲んでいた。
「仕事の途中か」と訊かれたと思い、「ええ」と一言。
勘違いはそこから始まる。「仕事で来たのか」だったのだ。札幌への「出張者」に、オヤジは親切に札幌の説明をはじめるではないか。「しまった」、と思ったが、もう遅い。他に客はいない。別に嘘をついたわけではないが、何とも居心地が悪くなってきた。
オヤジの期待を裏切らないよう、地元の人間とも、出張先の人間ともとれるアイマイな言い回しが続く。これ以上深みにはまっちゃいけないと、早々に店を出て時計を見たら、15分しか経っていなかった。
二〜三年前のことだが、季節は今くらいだったと思う。
自分の店の宣伝は、 ひとつもしないで、札幌の良さを一生懸命旅人に話す。その気持が嬉しい。
とつとつとした表現だが、妙に説得力があった。
狂牛病対策をめぐって、国と北海道の間に溝が出来ている。
十月十八日から、食肉用に解体されたすべての牛が検査を受けることになった。これは第一次検査であって、ここで疑わしいと思われた牛を第二次の精密検査にまわす。
国は、第一次検査の結果を、国民に明らかにするな、と言う。「狂牛病と決まったわけでもないのに、疑わしいだけで発表すれば混乱を招く」というのが理由である。風評被害を恐れる、生産者団体からの要請もあったようだ。
国、生産者団体、自民党、三者の反対を押し切って、道は第一次検査の結果を公表することを決定。「隠し事をしているうちは、道民の不安は消えない」という当然の理由のもとに。
人間の定期検診と同じだ。「検査結果の数値は教えない、再検査の結果、悪い病気だったときだけ連絡する」という病院で検診を受ける人はいないだろう。
情報を明らかにするところから、信頼関係は生まれる。
寿司屋のオヤジの言葉に説得力を感じたのは、決して大袈裟にに宣伝するのではなく、ありのままの札幌を伝えようとした、奥ゆかしさなんだろう。
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