HOSHINOTAKASHI


黄色い鯨


 黄色い鯨に乗ってきた。全長50メートルもある大鯨だ。この鯨、潮のかわりに空気を吹き出す。電気ウナギの親戚なのか、発電までしているのである。

  実はこれ、科学技術庁の外郭団体・海洋科学技術センターが、三重県の五カ所湾沖合でおこなっている実験装置で、「マイティ・ホエール(沖合浮体波力装置)」という。鯨の形をし、歯や目まで描かれたこの装置の構造は極めてシンプル。
  頭のあたりにある空気室に、口から飲み込まれた海水がやってくる。波で水面が上がると、空気が圧縮され潮吹き口から勢いよく吹き出され、逆に水面が下がると、これまた勢いよく吸い込まれる。こ の空気の流れを利用して、タービンを回し発電をするのである。
  波のエネルギーを吸収して、電気エネルギーにしてしまうため、しっぽから出てくる海水は、とても穏やかとなる。今のところ実験用だから、幅30メートルが一匹だが、将来これを連続して浮かべれば、クリーンな電気を生み出す魔法の防波堤になるのだろう。しかも、これまでの防波堤と異なり、内外の海水交流があり、海底の澱み問題も解消されるという。

  原子力発電は、運転に伴う放射性廃棄物問題が避けられないし、ひとたび大事故を起こせば、取り返しのつかないことになりかねない。だから原発は、クリーンエネルギーが登場するまでの過渡的エネルギーであることは、今や常識となった。
  黄色い鯨はクリーンといっても発電量がさほど大きくないので、これだけで原発の代わりになるとは思えない。だが、よく知られている太陽光発電や、風力発電とならんでこれまで何気なく見てきた自然界に潜むエネルギーから電気を取り出す人間の知恵は捨てたものじゃない。

  こうした一つひとつの積み重ねで、一日も早く原発に頼らない日本が来ることを強く想いながら三重を後にした。
  それにしても、鯨と陸地の中間点にポツンとあるコンクリートの固まり(これは県の防波堤建設計画が予算の都合で中断したものらしいが)なんとも淋しそうに我々を見送ってくれたのが、印象的である。

HOSHINOTAKASHI