HOSHINOTAKASHI


ギックリ腰と、ロンドンの衛兵 (2001.2/20) 


 「畳のような背中だね」―ギックリ腰を治すため、生まれて初めて訪れた治療院の先生に言われた。「これだけ凝ってれば、くしゃみをしただけで腰にくる」とも。
 人は歩くとき、腹筋と背筋をバランスよく使う。ただじっと立っていると、背筋ばかり酷使することになって、腰を痛めるということを知った。

 じっと立っている、ということで頭に浮かぶのが、イギリスの衛兵だ。彼らは、まるで人形のように微動だにせず門に立っている。と、突然、九〇度向きを変えたかと思うと、カツッカツッと数メートル歩き出し、止まると同時に右足を真横に上げ、ガシャッと、左足にぶつける。機敏に回れ右をした後、元の場所に戻ってくる。そして何事もなかったかのように、再び「人形」になるのだ。
 観光客は、「これを見逃したら、ロンドンに来た甲斐がない」と言わんばかりに、カメラを構えて、次のショウタイムを待っている。

 しかしあれは、あらかじめ決められた行為ではないらしい。
 じっとしていると腰にくる。だから、疲れたなと感じたら、自らの判断で歩き出して良いことになっているというのだ。その仕草があまりにも決まっているから、世界中に有名になったのだろう。
 観光客受けをねらっているかどうかは、定かでないが、体をいたわる仕草ひとつにもプロの姿を見て取れる。

 さて、「腰を痛めた」ということで友人たちが次々と提供してくれた情報は、整体、針、つぼ、気孔、マッサージである。どれも体験したことのないものばかり。いわゆる東洋医学だ。

 そして僕は、腰が治った。

 東洋医学と西洋医学は、いがみ合っているわけではない。治療院の先生も、「整形外科でレントゲンは撮ったんでしょ。骨に異常はありませんでしたか」と、西洋をたてる。

 遺伝子の解明に至った現代科学は、ひとつの節目を迎えたことになるのだろう。真理に向かう道は、一つでなくてもいい。西洋医学からのアプローチと、東洋医学からのそれ。
 少し大げさな言い方をすれば、「神の領域」と言われてきた「生命の神秘」に人類が足を踏み込むにあたり、両者の関係は、ますます近づくと、いったところだろうか。

 新道近くの治療院。携帯の登録が、またひとつ増えた。


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