HOSHINOTAKASHI


またげない敷居 (2004.8/1)

  「てめぇんとこだけが、ちゃぶ台屋じゃねぇや。頼まれたって買わねぇ」。
  言われた方も負けちゃいない。「上等だ、てめぇばかりが客じゃねぇ。二度と来んな」〜なんとも、物騒な会話である。戦後まもなくの東京では、こんなやりとりが、あちこちで聞かれたらしい。
  実はこれ、所帯を持ったばかりの私の父(故人)が、浅草で買い物に行ったときの話だ。きっと、「まけろ」「まけない」の悶着の末、お互い引くに引けなくなったのだろう。
  父の名誉のために付け足せば、物を買うときは、まず「まけろ」というのは当時のならわし。今でも、杉並にある深大寺境内で毎年開かれる「だるま市」では、「縁起物を定価で買っては御利益がない」と信じ込まれている。

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  参院選も終わり、私の事務所は「青空パーティ(註)」の準備一色になっている。
  五年間、千五百円で実施してきたが、狂牛病問題で牛肉が高騰したため、参加費の値上げが議論となった。一度は会議で二千円と確認もされた。
  しかし心の隅で、「本当にいいのかなぁ」と悩んでいた私は、チケット印刷の校正をぼんやり見ながら決断した。赤ペンで、二千を千五百に、黙って修正。
  まわりにいた人はビックリしたが、「三千人も参加してもらうんだから、スケールメリットは出るさ。私も売りまくるから」と、我が儘を勘弁していただいた。

  これで、「まけろ」「まけない」の悶着はないなと、心の中で独りごちた。

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  啖呵を切った父。他の店を覗いてみたはいいけど、結局、はじめの店が一番安くて品物もよかった。しかし、「やっぱり買ってやらぁ」と、店の敷居を跨ぐには、下げていく面がない。
  母の母(故人)に頼んで、買いにいってもらったらしい。
  半世紀にわたり、今も実家で語り継がれている、ほのぼのとした笑い話である。

(註)東区青空パーティ
八月二十九日(日)午前十一時/東区美香保公園/千五百円/ビール・ドリンク飲み放題/国産牛三百グラム・野菜付き

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