HOSHINOTAKASHI


CAFEと汗(2000.11/27) 


  フランスのカフェには、いろんな人がいる。本を読んでいる人、友達を待つ人、パソコンで仕事をする人、居眠りをする人、カップルで会話を楽しむ二人…と、いう具合に。
  つまりそこは、何をしてもいい場所であり、あるいは、何もしないで過ごしてもいい場所なのである。

  この話を聞いたとき、「何もしない」ことが選択肢の一つとなっていることに、とても新鮮なものを感じた。自立した個人で構成される、成熟した市民社会ならではのエピソードとも言える。

  よさこいチーム結成五周年公演に招待をされた。力強いステージで知られる、民謡歌手の伊藤多喜雄さんも参加したイベントである。
  ほとんど暖房効果のないツドーム(札幌東区のイベントホール)にもかかわらず、汗ばみながら懸命に踊る女性たち。エネルギッシュな動きに感動を覚える。夕方からの開演に向け、朝からリハーサルを続けた彼女たちの頭の中には、数時間後に迫る舞台で、「失敗したくない」と言う気持だけが充満していたことだろう。チームのメンバーに迷惑をかけてはいけないというプレッシャーもあったに違いない。

  しかし、厳しい練習を乗り越えた後の本番では、そんな印象は皆無であった。振り付けを間違ったらどうしようとか、順番が違ったら恥ずかしいとか、そんな意識は少しも感じられない。
  誰もが、踊ることを楽しんでいる。もしかしたら、観客がいることさえ忘れながら、踊っているのかもしれない。

  他人に強制されて踊るのではない。歌うのでもない。いやだったら、いつでもやめられる。「しなくてもいい」自由があるからこそ、そこに、自立した個人による、本物の市民社会が生まれる。


HOSHINOTAKASHI