HOSHINOTAKASHI


足を、ソファの背もたれに (2002.2/11)


 マグロは、生まれた後、死ぬまで泳ぎ続けるという。
 寝るときはシフトダウンするが、それでも時速四〇キロメートルくらいで、水中を動き回る。そうしないと呼吸が出来ないのだろうが、忙しい奴だ。マグロに生まれなくて良かったと、つくづく思う。

 人間も、歩き回りこそしないが命を維持するために、心臓は働き続ける。ここで疑問が一つ。
 酸素をたっぷり積み込んだ血液は、ポンプである心臓の力で、体のすみずみまで送られる。だが、積み荷を二酸化炭素に交換し終えた血液は、誰の力で、再び心臓まで戻るのだろうか。

 心臓より上にある器官、特に脳に送られた血液は、帰りは水がこぼれるように、重力の力を借りて心臓に戻る。
 「ウソだ゛ー」と思う方は、ソファーにうつ伏せになって、頭を床まで垂らし、しばらく我慢していて欲しい。心臓からは、次々と新しい血が送り込まれる。しかしいつもは重力の助けで戻っていた血は、それが思うに任せず、頭に血がのぼった状態で、死にそうになるだろう。

 もちろん、重力だけでなく、筋肉の収縮がポンプの代わりを果たしてもいるのだが、心臓より下の器官に比べると、怠け者になっていることは確かである。

 雪印食品の牛肉偽装事件で、雪印乳業全体の信頼は完全に失墜しつつある。
 北海道新聞にも紹介されていたが、雪印の創業者たちは、食の安全に、それは厳しい人たちであった。彼らによって、雪印という肉体を流れる血液は、いつも新鮮に保たれていたのである。

 しかし組織の肥大化とともに、体内を流れる血流によどみが出始めた。血液の凝固は、それによって支えられている肉体、つまり会社そのものの死につながりかねない。

 さて心臓より下、特に足の筋肉たちは、いつも重力に逆らって血を戻すために、けん命の努力をしている。たまには、ソファに仰向けになり、背もたれに両足を載せてあげ、重力の力を貸してあげよう。

HOSHINOTAKASHI