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三十年かかった回答 (2002.3/18) |
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動かないエスカレーターは、歩きづらい。
一段昇った時の感覚が、脳に残っていて、次も同じ高さを昇るよう、反対側の足に指令する。しかし普通の階段と違い、段差がそれぞれ違うので、指令は現場段階で混乱することになるのだ。「話が違う」と。
昔、レーザークレー射撃場というのがあった。ゴルフのインドア練習場程度の広さで、前方のスクリーンに標的の皿が次々と飛び出してくる。照準を合わせ、ライフルの引き金を引く。発射されるのは弾丸ではなく、レーザー光線なのだが、的中すると、スクリーン上の皿が砕け散る仕掛けである。
しかし、何度やっても当たらない。
しょげ返っている学生の僕らに、常連客がアドバイスしてくれた。「的の三十センチ先を撃ってごらん」。
すると、面白いように命中するではないか。その時の僕は、そして教えてくれた彼も、「銃口から放たれた光線が、スクリーンに届くまでの間に、皿が三十センチ進むからだ」とばかり思っていた。
その考え方が間違っていたことに、三十年かかって気が付いた。気付かせてくれたのは、壊れたエスカレーターである。
そうだ、そうだったんだ。ライフルを構えた場所からスクリーンまで、たかだか三十メートル。光線は瞬時に届くのであって、そのあいだに皿が三十センチも進むわけがない。
では何故三十センチ先を撃てば当たるのか。簡単なことだった。皿の動きを目でとらえ、脳が撃てと指令を出す。その指令が、引き金を引く人差し指に届くまでの短い時間に、皿が進んでしまうのだ。
脳の指令と、それに基づく手足の行動。階段の昇り幅など、予期しない出来事にぶつかったときの、判断と行動の修正。こうしたことは、歳を重ねるごとに、反応時間が長くなるようだ。
障害者世界大会を控え、福祉の街づくり条例にもとづく札幌のバリアフリー化が進められている。あちこちで見る歩道の縁石工事などもその一つである。
街を優しく造り替えることは、大切なことだ。
しかし同時に、忘れていけないのは、障害者や高齢者が、健常者や現役世代とは異なるスピードで生活しているということだろう。
エスカレーターでつまづいた今の出来事が、昔の疑問に答を出した。そしてその答が、生き方のスピードという、これからの課題に問題を投げかけた。
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