HOSHINOTAKASHI


七瀬三部作 ―筒井康隆(新潮文庫)


  「家族八景」「七瀬再び」「エディプスの恋人」(いずれも新潮文庫)は、俗に七瀬三部作と呼ばれています。主人公の火田七瀬は、「どんなコンテストでも三位以下になることはない」美人。そして、なんと彼女は他人の心が手に取るように読める超能力者だから、すばらしい。人は誰も、そんな能力が欲しいと願望しているわけですから、一種うらやましさと、痛快感をもって、物語に引き込まれます。

  「家族八景」では、お手伝いさんとしての七瀬が、一見ホームドラマ風な家族の背後にあるドロドロした人間関係を次つぎとあばき出していきます。
  「七瀬再び」では、超能力者を抹殺しようとする組織との血みどろの闘いを展開。
  そして「エディプスの恋人」では、七瀬が神の存在を知り、宇宙そのものをかいま見るという壮大な展開となっていくのです。

  この三冊は、明らかに他の筒井の作品と異なります。彼の通常の手法は、ひたすら、しかも徹底的に社会を茶化し、そのことで世界そのものをひっくり返す準備をしているのではないかと思わせるところがあります。
  ところが、この三部作は、これでもか、これでもかと、人間の深層心理をえぐり出していくのです。

  いろんな男が登場しますが、彼らは全部が色魔。そしていろんな女が登場しますが、彼女たちは全部が軽薄。人間社会の、色魔と軽薄の絡み合いをよそに、神はそれまでの男性神が定年退職し、女性神に道を譲るという設定が、たまりません。

  突然変異としての超能力者たちの、喜びと哀しみをつうじて、人類総体を批判し、神を(いささかコミカルだが)表現することで、宇宙そのものに、限りない畏敬の念をあらわす。

  超能力者、筒井康隆だからこその作品です。


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