HOSHINOTAKASHI


困った人たち ―山口 瞳(新潮文庫)


  高倉健の「居酒屋兆治」という映画、覚えてます?
  男の哀しさと優しさ、それから活きることへの一所懸命さ。女の一途さと、徹底した悲しさ。それやこれやがスクリーン上で交錯する、けっこういい映画でしたね。
  あ、映画評論をしようというのではありません。この「居酒屋兆治」の原作者、山口瞳のエッセイ集「困った人たち」を紹介したかったのです。

  僕は、このエッセイ集を半分くらい読んだとき、夏目漱石の「ガラス戸の中(うち)」という随筆集を思い出しました。これは、漱石が自室からガラス戸ごしにおもてをながめ、そこに起こるいろんな出来事を、ごく素直なタッチで描き出したものです。漱石ってのは、人生をものすごくまじめに考えてるんだな、というのが当時の第一印象でした。

  「困った人たち」は、漱石に通じるものがあります。身の回りに起こるささいなことがらを、なんの先入観も持たず、型にはまらない感受性をもって見つめる。様々なしがらみにしばられている現代人には、なかなか出来ないことだと思いませんか。

  汚れを知らない少女の感性に触れる思いです。

  固定観念のぶつかり合いからは、新鮮なものは生まれないでしょう。道に咲く小さな花を見て、「かわいい」と素直に思える余裕の大切さを思い出させてくれる、そんなエッセイ集です。


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